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第78話
あの後、各々自室に籠った。佐奈はベッドに入るも、優作と慎二郎のことで色々と頭を悩まされ、一睡も出来ずにいた。
優作が言った〝好きな奴が出来ると困る〟というのはどういう意味なのか。
慎二郎の言う〝それぞれが限界〟とはどういうことなのか。
優作と慎二郎の思い詰めた顔。それぞれが吐き出せないものに捕らわれいる。もう何から考えればいいのかも、佐奈には分からなくなっていた。
「佐奈、おっはよー!」
眠気が吹き飛ぶような元気な声がキッチンに響く。佐奈は驚きで、たくあんを切っていた手元が少し狂った。
「お、おはよ、慎二郎」
「出汁の匂いがたまらないよな。って、そのたくあん形が変だぞ」
慎二郎は佐奈の脇から、まな板に乗せているたくあんをつまみ上げて笑う。
佐奈はそんな慎二郎を凝視する。昨夜の慎二郎は夢だったのかと。
佐奈の視線に気付いた慎二郎は、首を傾げた。
「どうしたの?」
「……いや、朝から元気だなって。それは、慎二郎が大きな声を出すから、ビックリして手元が狂ったんだよ」
「あーごめんごめん!」
愉快そうに笑いながら慎二郎はリビングから消えていく。
前のように抱きつくことはしてこなかったが、いつもの慎二郎に戻っている。
だがそれは慎二郎の空元気だと佐奈も感じている。佐奈には分からない事で、慎二郎もあんなに辛そうな顔を見せる程に悩んでいて、しかもそこに少なからず自分が関わっている。
そしてどうやら優作も絡んでいるらしいことも。
「おはよ、佐奈」
「優作……おはよう」
優作の髪に寝癖がついていない。クマはないが、優作もあまり眠れなかったのかもしれない。
まだスウェット姿の優作が佐奈の傍らに立つ。そして佐奈の目元を優しく指で撫でてきた。
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