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第81話
この学園のトイレは、これもモールと似た設計で回廊から細い通路に入ると、少し開けた空間となっている場所にトイレがある。
そのため各男女のトイレ入口まで来ると、回廊からは死角となる。しかもこの場所は利用する生徒が少ないのか静かだ。
「やってくれたね」
男子トイレの入口前で三國は佐奈へと振り返り、開口一番そう告げてきた。
「何のことですか?」
大体のことは察しているが、敢えて佐奈はとぼけた。
「今朝、深山がモデルをやめると言ってきた。君がやめろとでも言ったんだろ?」
やっぱりかと思う暇もなく、三國は〝教師〟の皮を被るのもやめ、感情のまま佐奈に鋭い視線を向けてきた。
佐奈は気圧されそうになるが、毅然と背を伸ばし、その視線を受け止める。
「なぜそう思うんですか? オレはただの弟ですよ?」
「ただの弟?」
三國は小馬鹿にするように鼻で笑った。
「あんな熱っぽい目で深山を見ておきながら、ただの弟?」
その指摘に佐奈の顔がカッと熱くなる。
三國は佐奈へと身を寄せ、そして耳元に顔を近付けてきた。
「昨日、俺がキスをするところ、見てただろ?」
「っ!?」
「何で知ってるのかって顔だね」
佐奈がゆっくりと三國を見ると、彼は愉快そうに笑う。
「それは、深山は他の生徒らに見られることを嫌うから、あの周辺は人避けをするために、数人の同僚にも協力してもらってたんだよ。その時に村田先生から連絡があってね。君が非常通路を通るって」
得意気に話す三國に、佐奈の心がスッと冷えていく。
「貴方、最低ですね」
「何だって?」
笑顔が一変、三國の美しい顔の眉間には深いシワが寄る。
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