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第82話

「して良いことと悪いことの分別(ふんべつ)もつかないんですか? 貴方はこの学園の先生でもあるのに、いい大人が何をしてるんですか」  教師という立場の上に、学園内でというのは問題だが、好きで好きでどうしても抑えきれなくてしてしまった。それならまだ少しは譲歩出来たかもしれない。だが見せつけるためだけに、教師が学園内であのような行為をするなど人間性を疑うことだ。 「大人しそうな顔をして、結構言うんだな」 「ただ常識を言ったまでです。あと、これだけは言っておきます。オレは絶対に貴方だけは認めないので」  それは佐奈なりの宣戦布告だった。そしてもう顔を見たくないとばかりに、佐奈は直ぐに踵を返す。 「可哀想にね……」  その背中に三國の同情めいた声がかかる。佐奈は嫌そうに振り返った。 「何がですか」 「君も不毛なことに悩まされてるなら、潔く諦める事を学んだ方がいい」  佐奈は唖然と三國を見、そして呆れたようにため息を吐く。 「貴方にとやかく言われたくないんですが。ほっといてください」 「ふぅん……〝兄弟〟でと、うじうじ悩んでるのかと思いきや、そうでもないのか? 深山に言ったらどうなるのかな?」  佐奈は愕然としながらも、怒りで震える拳を握った。 「言いたかったら言えばいいじゃないですか! 貴方が学園内で生徒に手を出した事を忘れてなければね」  もう限界だった佐奈は、そう吐き捨てると直ぐに回廊へと飛び出して行った。    本当は優作に佐奈の気持ちが伝わってしまうと、厄介なことになる。家族がバラバラになってしまう恐れがあるからだ。何のために今までバレないようにしてきたのか、全てが水の泡になる。  しかし佐奈は、三國だけにはどうしても弱味を見せたくなかった。例え後先も考えないような浅はかなものだったとしてもだ。  

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