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第83話

「え……? マジかよ……」  倉橋の困惑とした声が静かな通路に響く。  あの後の生物の授業では、佐奈はずっと心ここにあらずな状態だったため、倉橋は心配で仕方なかったに違いない。しかも呼び出した相手が三國ということもあったがために。  そして痺れを切らした倉橋に、佐奈は昼休みに特別教室が多い通路側へと連れて来られたのだ。昼休みのため、二人以外は誰もいない。 「まぁでも、あの先生、お兄さんに言うなんてことはしないと思うけどな。いや、出来ないかな」 「……なんで?」  佐奈は倉橋に、昨日の出来事から話した。もう誰かに聞いて欲しいくらいに佐奈は切羽詰まっていた。  そしてそれに気付き、親身になって聞いてくれる倉橋。倉橋が居てくれて本当に良かったと佐奈は強く実感する。 「まぁ、これは俺の勝手な想像だから、はっきり言えないけどさ。お兄さんがモデルをすっぱりと止めた理由とかさ、あの人は最初から分かってたことだと思うぜ? だから自分から墓穴を掘る真似なんて、プライドがお高いあの人には無理なんじゃねぇかと」 「……その理由を倉橋は分かるってことだよな」 「う~ん、分かるって言うか……あくまでも予想だからな。それを俺の口から勝手に言っちゃマズイことになるし。ただ……」 「ただ?」  倉橋は顎に手をやり、少し考えるような仕草をする。そして突然倉橋は佐奈の手首を掴んだ。 「く、倉橋?」 「なぁ、お兄さんって昼飯食った後、いつも何処にいるんだ?」 「多分、ブレイクルームだと思う。前にそう言ってたから」 「よし、行くぞ」 「え? ちょっと」  佐奈は倉橋の手を外そうと腕を引くが、倉橋はお構い無く、ぐいぐいと佐奈を引っ張りながら走る。

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