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第84話
「なぁ倉橋どうしたんだよ!」
「お前もさ、お兄さんの言動とやらをしっかり見ておけよ」
「言動?」
佐奈の質問は答えをもらえないまま、二人はブレイクルームにたどり着く。
「どう? 居るか?」
「うん」
「一人?」
「うん」
ブレイクルームの開いた窓から佐奈がそっと中を覗くと、優作がテーブルに突っ伏している姿があった。
暗黙の了解となっているのか、昼休みにここへと近付く人間はいない。
「なぁ、〝佐奈〟」
「え……?」
突然倉橋が大きな声で、普段は呼ばない名前を口にする。しかも窓を背にした佐奈を囲うように、片腕を壁に突いてきた。そのせいで、倉橋との距離がグッと近くなる。
「倉橋? どうしたんだよ急に……」
「いいから、今は俺に合わせて」
真剣な目をした倉橋にそう言われてしまえば、佐奈は頷くことしか出来ないが、緊張し過ぎて口の中がカラカラだった。
「で、でもちょっと近すぎじゃ……」
「こうしなきゃ意味ないだろ?」
「意味って、何の……」
佐奈が倉橋の胸を押そうと手を置いた時、直ぐ隣のブレイクルームの扉が開いた。
驚いた佐奈の目に、優作の姿が飛び込む。
声を出そうとした佐奈だったが、優作のただならぬ空気に言葉を飲み込んでしまった。
優作の視線が倉橋の胸元にある佐奈の手から、倉橋の顔へと移る。その目があまりにも鋭利で、佐奈の身体までもがヒヤリと固まる。
「佐奈に触るな」
聞いたこともない低く唸る声。
ビクリと身体を震わす佐奈の手を優作は掴んで、一気に自身へと引き寄せた。
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