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第88話
「で? 三國はこんな所で何してるんだよ」
優作は佐奈の腕から手を離すと、三國へと身体を少し向ける。それがたまらなく寂しいと感じた。
三國さえ現れなければ、あの場で優作の気持ちをもう少し確かめられたのではと、そんな思いさえもしたからだ。
「俺は深山に用があったからな。ここはお前のテリトリーでもあるだろ?」
「用って?」
三國は軽い冗談でも言って優作の機嫌を取りたかったのだろうが、優作はそれには応じない。
佐奈も佐奈で、わざわざ昼休みに優作の元に訪ねてきた三國に嫌悪感すら湧いていた。そのため佐奈は三國の顔だけは見ないよう、優作だけを視界に収めた。
「今日突然、モデルを止めるなど言われて、俺は困ってる」
見なくても三國からの刺すような視線は感じる。本人を目の前に、嫌味を言うのを忘れないといったところか。
「知らねぇよ。それに一週間も付き合ったんだし十分だろ」
一応先生という立場にいる三國に対して、優作は辛辣に言う。佐奈はついチラリと三國に視線をやってしまう。その顔は怒るどころか、むしろどこか嬉しそうな顔だ。
「それでもこっちは中途半端になってるんだよ。だから次の授業の資料を今すぐ取りに来い。そしたらチャラにしてやるよ」
佐奈の隣で優作は大きくため息を吐く。
「……分かったよ。こっちも急に言ったのもあるしな」
「さすが深山」
三國の声は嬉しさでか弾んでいる。そして優作の肩を軽く叩いて、先に二人の前を通りすぎていく。
「佐奈……悪い」
「ううん。でも何だかちゃっかりしてる先生だね」
「あぁ……言ったろ? 人使い荒いんだよ」
優作のうんざりといった声を聞きながら、佐奈の内心は複雑であった。
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