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第90話

「どうだった? お兄さんかなり怒ってたけど大丈夫だったか?」  教室に戻ってきた佐奈を、倉橋は教室の隅に連れ込む。色々と心配だったのだろう。待ちわびていたかのような倉橋に、佐奈は微笑んだ。 「……うん。大丈夫だったよ」 「そっか、とりあえず良かった。ま、それでその怒ってた意味も分かったんじゃねぇの? いくら弟が純粋に心配だったとしても、あんな風に俺に敵意を向けるなんて普通はしないからな」  佐奈は倉橋に頷きながらも、大きな壁にぶち当たってることが、素直に喜べずにいた。 「この先は他人である俺がとやかくは言えないからな。今後どうするかは深山の意思を尊重するぜ」  倉橋は佐奈の肩を軽く叩くと、元らのグループに混じっていった。 「オレの意思か……」  倉橋のお陰で0だったものが少し希望の光のようなものが見えた。それをこのまま何もせずに終わらせるのか、それともその光をより一層大きなものにするのか、全ては自分次第。  〝家族〟のことなど色々頭を巡ったが、佐奈は午後の授業は考えることに費やした。  そしてある決意を胸に大きく息を吐き出し、ぐっと唇を噛んだ──。  優作はバイトのため、慎二郎と二人夕食を済ませ皿を片付けているとき、佐奈のスマホが着信を報せてきた。  時間を見ると二十二時。スマホの画面を見ると優作からだった。 「もしもし優作、お疲れ様。どうかしたのか?」  佐奈の心配混じりの声に、リビングでテレビを見ていた慎二郎はテレビを消し、佐奈の傍へとやってくる。 「……え? そ、そっか……分かった。気を付けて」  佐奈は思わずその場で膝を突きそうになる。  せっかく勢いづいていた佐奈の想いが一気に萎んでいく。  自分の兄であろうと男であろうと、もうそんなことは関係ない。優作が欲しい。そのことに偽りはない。ないがこのタイミングはないだろうと。

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