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第91話
「佐奈? どうしたんだ?」
慎二郎がスマホを片手に固まる佐奈の顔を覗き込む。佐奈はそれに驚きながらも我に返った。
「あ……うん。優作が先生を送っていくって」
「ごめん、どういうこと?」
「う、うん、優作の担任がね、ジムに来たみたいで、それでトレーニング中に足を捻ったみたい。で、家まで送るって」
佐奈はカラカラになった唇を噛みしめる。
慎二郎はそんな佐奈を暫く見つめていた。そして不意に大きなため息を吐きながら、亜麻色の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す。
驚いた佐奈は慎二郎を凝視してしまう。
「ユウの担任って三國ってやつ?」
少し苛立たしげな慎二郎の口から出た名前に、佐奈は驚く。
「え? うん。って何で知ってるんだ?」
「あー……昨日、佐奈を待ってる時にあのイケメンに会ったから、まぁ色々訊いたんだよ」
「イケメン……倉橋?」
慎二郎は首肯し、リビングのソファから自分のスマホを掴んだ。
確かに倉橋も慎二郎に会ったとは言っていたが、まさか話しているとは佐奈も思っていなかった。倉橋もそのことは何も言わなかったからだ。
「色々って何を訊いたんだ?」
「最近、ユウの周辺にいる目障りな奴のこと」
なぜ優作の周辺にいる目障りな人間を訊いたのか、佐奈が疑問に口を開きかけたとき、慎二郎はスマホを耳に当てた。
「オレだけど。何してるんだよ。そんなのタクシーでも捕まえて放り込んでおけばいいだろ?」
相手と繋がった瞬間に、慎二郎は捲し立てるように言う。もしかして電話の相手は優作なのかと、佐奈は慌てる。
「ちょっと慎二郎、なに言ってるんだ?」
「はぁあ!? 」
慎二郎は佐奈に背を向け、優作とおぼしき相手に、怒りの声を上げた。
「そうかよ! ならオレが佐奈をもらうからな! 今すぐ帰らねぇと後悔するぞ! そうなっても知らねぇからな! せいぜいそいつと仲良くしてたらいいだろうが!」
慎二郎は怒鳴ると、怒りをぶつけるようにスマホをソファへと投げつけてしまった。
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