93 / 141

第93話

 そして、血の繋がった自分の兄に恋をする義理の兄。このことを慎二郎はどう思っているのだろうか。そのことが佐奈の頭の中を占めていく。 「見てたら分かるって……慎二郎はその……何とも思わないのか?」 「何ともって?」 「だって……男同士な上に、兄弟だし。こんなの……」 「だから?」  何の問題があるのだと言いたげな顔で慎二郎は言う。  慎二郎は嘘や偽りなどは言わないだろう。真摯なアンバーの瞳を見れば分かる。しかしそれを受け入れることに佐奈の知らない葛藤があったはずだ。このようなこと、直ぐには受け入れられなかったはずだ。  それをおくびにも出さず、兄を傷付けまいと笑顔を見せる慎二郎に、その優しさに、佐奈の胸が締め付けと共に、じわりと温かくなった。 「ちょ、佐奈……なんで泣くんだよ」 「ごめん……」 「佐奈!!」  佐奈が涙を手で拭おうとしたとき、突然切羽詰まった声がし、扉が勢いよく開いた。  佐奈が驚く中、リビングに入ってきたのは、息を弾ませた優作だった。そして佐奈の顔を見るや、優作の顔は瞬時に怒りの表情へと変わった。 「シン! てめぇ!」  まさに疾風の如く。優作は凄まじい勢いで慎二郎の胸ぐらを掴み、今にも殴りかかろうとする。 「優作! やめて! 違うから!」  佐奈は悲鳴混じりに叫び、直ぐに二人の間に体を割り込ませる。すると、優作は瞬時に佐奈を腕の中へ収め、きつく抱きしめてきた。 「佐奈……佐奈……」 「ゆう……っ」  佐奈の髪に顔を埋め、まるで奪われてなるものかという強い抱擁。息苦しさの中で、独占欲を感じさせる腕に、佐奈はこの上ない幸福に包まれていく。優作の温かい体温が佐奈の心を満たしていった。  ひとしきり抱きしめ、ゆっくりと腕を緩めた優作は、佐奈の涙の後を指で拭う。  

ともだちにシェアしよう!