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第94話
「本当に何もされてないのか? だったらなんで泣いてた」
優作は実弟に向ける目とは思えないほどの、鋭い睨みを慎二郎に入れた。息を呑む佐奈を余所に、慎二郎は不敵な笑みを浮かべる。
「思ってたよりも早く帰ってきたな。そんなに必死になるなら不安にさせるなよ」
「……シン、お前?」
優作の眉がいびつに歪んだのを佐奈は見た。それは少し戸惑ってる時の優作だ。
「後はゆっくり二人で話せば? オレはコンビニ行ってくる」
慎二郎は二人に背を向け、おざなりに手を振ってリビングから出て行った。
「アイツ……」
優作は少し声を詰まらせ、金の髪を掻き乱す。
「優作……?」
佐奈が呼んでも優作は、暫く髪に手を差し込んだまま俯き黙っていた。
そしてようやくと、気持ちを切り替えるように優作は大きく息を吐き出す。
「こんな形だけど、大体察しがついただろ?」
優作は佐奈に向き合うと、複雑そうに笑みを見せる。そんな優作に佐奈はゆっくりと頷いた。
「どんな形であろうと、佐奈には俺の想いは絶対知られるわけにはいかなかった。俺は長男で今は兄弟を守る立場にいるのに、自らそれを壊したら話にもならねぇって、ずっと自分にそう言い聞かせてきた。でも、佐奈が高校に上がって、心配してたことが現実になってきて……。お前はどんどん綺麗になるし、現に佐奈をそういう目で見てる奴もいる」
「え……?」
佐奈は驚いて思わず口を開いてしまう。
「いるんだよ。お前の友達とやらもそうだけど、俺の学年でも佐奈を見てる奴がいるからな」
「そう……なの? でも、倉橋は違うよ……」
倉橋以外にもまさかという思いがあるが、倉橋は今ではよき理解者で頼もしい友人だ。今はそれを敢えて優作には言わないが。
「例え違ったとしても、どんな理由であれ、佐奈に触れる男が許せない。いつか佐奈にも彼女が出来るという覚悟もしてきたつもりだ。でも男だけはどうしても許せねぇ」
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