95 / 141

第95話

 優作の確固たる強い想いが、掴まれる佐奈の両腕に伝わってきた。 「佐奈……好きだ。ずっと……出会った時から、佐奈が俺の全てだった」  佐奈の涙腺は崩壊していた。流れるままに、愛しい人の言葉を一言一句聞き漏らさないよう、佐奈は必死に耳を傾ける。 「血が繋がってないとは言え、男である兄に、こんなこと言われて佐奈は気持ち悪いだろうけど、もう誤魔化せない。彼女が、なんて見栄はって言ったけど、本当は誰にも渡したくねぇよ。佐奈が欲しい。欲しいんだ……」  渇望。優作の美しい紺碧の目がそう訴えている。佐奈の心が歓喜で震える。  まさかこんな言葉を聞ける日が来ようとは誰が想像出来ただろう。これは夢なのではと、時折そんなことが頭を掠めてしまうほどだ。  優作が葛藤してきた想いが自分と一緒。ただ違うのは、優作は出会った時からと言っていたこと。その年月を思うと、佐奈の想いよりもきっと深いなのだろうと思わせるものだった。  お互いが〝家族〟〝男同士〟というものに縛られ、想いを伝えることが出来なかった。それを慎二郎と倉橋のお陰で、優作の秘められた自分への想いを知ることが出来た。  今度は自分が想いを伝える時だと佐奈が口を開きかけた時。  それは突然と、重大なことを気付かされた瞬間だった。  なぜ直ぐに気付かなかったのか。佐奈の胸は軋むように痛みだし、涙は止めどなく溢れた。 「……優作……」 「……悪い。そんなに泣かれると辛いけど、俺は──」 「違う!」  佐奈の腕から離れた優作の手を、佐奈は強く握りしめた。 「そうじゃなくて……実はオレ、今日優作に告白するつもりでいたんだ。優作に先に言われてしまったけど……オレも優作が好きだ。好きなんだ……どうしようもないほどに」  この想いだけはちゃんと目を見て伝えたい。優作の綺麗な碧眼を見つめながらも、握りしめた佐奈の手は震えていた。

ともだちにシェアしよう!