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第96話

 目の前の優作は心底に驚いたような顔を見せ、まばたきを忘れたかのように佐奈の目を見つめている。 「それは……本当なのか?」  いつもはキリッと凛々しい優作の眉が、今や自信なさげに下がってしまっている。こんな顔、きっと佐奈の前でだけしかしないだろう。  佐奈はそんな優作に何度も頷く。 「こんな時に、誰が嘘つくんだよ」 「そう……だよな。悪い。あぁーでも、まだなんか信じらんねぇよ!」  優作は歓喜したように、再び佐奈を腕の中へと引き寄せ、きつくきつく抱きしめてきた。  そして少しずつ腕を緩め、愛おしそうに佐奈を包み込んだ。 「だって、まさか佐奈も同じ気持ちだとは思ってもみなかったから」 「それは……オレも同じだよ」  あの優作が、ゴージャスで誰もが憧れる男が、そして兄が、まさか自分のことを、しかも出会った時から好きだったと言う。  優作に嘘ではないと言いつつ、佐奈もまた、まだ信じられない思いが半分ほど残っている。  だが〝あることで〟これは現実なんだと知らされる。 「佐奈……本当に俺のものなんだよな」 「……うん」 「佐奈?」  反応が薄い佐奈に、優作が心配そうに顔を覗き込もうとする。それよりも早く、佐奈は優作の厚い胸にしがみついた。 「優作と、想いが通じ合って嬉しいよ……こんな幸せなことない……。でも……」  ここで嗚咽が混じり、佐奈は優作の胸に顔を埋めた。 「慎二郎が……」  『それぞれが限界』誰よりも辛そうな顔でそう言っていた慎二郎。  慎二郎の悩みに佐奈と優作が関わっていることを思い出すと、次々と今までの慎二郎の言葉が繋がった。  〝優作には佐奈が言う好きな人は絶対にない〟と言った言葉のニュアンスも『オレと一緒だからだよ』と言った言葉の根拠というものが、今ならちゃんと繋がる。

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