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第98話
優作にとっても、ずっと触れたかった佐奈の唇。その強く深い想いが、重なる熱で佐奈に教えてくれる。
まるで飢えを満たすかのように、咥内に差し込まれた優作の舌は、佐奈の舌を絡め取り、激しく貪る。
「ん……ん」
甘い蜜の啜り合いで、飲み込めない唾液が口の端から顎へと伝っていく。
優作とのキスは二度目とは言え、やはり想いがこもったキスは全然違った。息継ぎのタイミングが上手く掴めず苦しいが、咥内の愛撫はそれ以上に感度を高められていく。
「あ……ふ……」
下腹部には甘い痺れが走り、その熱を更に高めようと優作の手が佐奈の身体を這い回る。
そして優作の舌は顎から首筋へと伝い、もう次の段階へと官能的な空気を作り出され、佐奈は慌てて優作の胸を押した。
「ゆ、優作」
「佐奈……?」
激情を物語る雄の目をした優作。好物の獲物に夢中になっているときに、いきなり途中でそれを取り上げられた猛獣のよう。困惑の表情 を見せながらも、まだかと待つ欲に濡れた目。
佐奈も男だ。このまま優作と激しく縺れ合うように、この熱を溶かし合いたい。だが……。
「もうすぐ慎二郎が帰ってくる……」
佐奈の言葉に優作が暫く停止してしまった。そして項垂れるように呻きながら、佐奈の肩に顔を埋める。
「はぁ……だよな。さすがに家ではな……」
「うん……ごめん」
優作は猫のように佐奈の首筋に鼻先をすり寄せてから、唇に軽いキスを何度も落とす。
佐奈の頬には涙の筋が再び出来ていた。
この上ない幸せの今。
そして慎二郎への思い。
何も出来ないと頭では理解したが、やはり心は直ぐにそこに追いつく事が出来ずにいる。
目の前の幸せを感じながらも、佐奈の心は様々な想いで胸が締め付けられていた──。
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