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第100話

「いいか! オレの前で、いや、この家でいちゃつくことは絶対禁止だ! そして〝弟〟であるオレは佐奈に触れていいのは当然の権利だ」  声高に息巻く慎二郎に、優作は舌打ちを鳴らした。 「〝弟〟はそろそろ兄離れしないとな。お前も来年は高校に入るんだ。いつまでも佐奈にベッタリじゃ恥ずかしいだろうが」 「そんなの人前でしなかったらいい話じゃん。とにかく、佐奈を泣かしたら絶対に許さねぇからな!」 「泣かすわけねぇだろ」  優作は佐奈を抱きしめ、愛おしそうに佐奈の柔らかい黒髪を撫でる。  嬉しい反面、慎二郎に対してこれはいけないのではと佐奈の内心は酷く焦る。 「だーかーらーいちゃつくなって!」  優作の腕から強引に佐奈を引き離し、今度は慎二郎が佐奈を抱きしめる。 「だから触るなって」  再び優作の腕の中。  それから二人の佐奈の取り合いが始まり、いい加減佐奈のこめかみにも青筋が立つ。 「ちょっと二人ともいい加減にしてよ! ご飯作れない」 「えぇー! 今そこ!?」  慎二郎はたまらずと噴き出した。優作は前髪を掻き上げながら優しい笑みを浮かべた。 「佐奈」 「……はい」  笑いを静めた慎二郎の真剣な声音。佐奈は無意識に背筋を正した。 「オレはいつでも、どんな時でも佐奈の味方だからな。例え親を敵に回したとしても。だから冗談じゃなくてさ、ユウに泣かされたり、辛いことがあった時は直ぐに言ってくれよ」 「うん……うん……慎二郎……ありがとう」  あまりの嬉しさで堪えていたものが一気に溢れてしまった。  慎二郎の温かい心は、佐奈よりも遥かに懐が深く、大人であると知らされる。慎二郎の気持ちを思うと切なく胸が痛いが、優作の言うとおり、その意思は尊重しなくてはいけないのだと佐奈も本当の意味で理解した。

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