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第104話

「倉橋……その、色々ありがとな」  教室前の回廊で、二人は落下防止の高欄の手摺に肘を乗せ肩を並べた。 「ということは、上手く行ったんだな」  倉橋は自分の事のように、嬉しそうに佐奈の背中を軽く叩いた。  佐奈は照れが混じりながらも頷いた。 「これも全部倉橋が協力してくれたお陰。後、慎二郎が……弟が協力してくれたんだ……」 「あぁ、なるほどな。弟くんが俺に声を掛けてきたときは、マジでビックリしたけど、そういう訳ね」  慎二郎が優作周辺の事を不機嫌に訊ねてきたことで、倉橋は色々と確信するに至ったそうだ。  だから倉橋ならきっと、慎二郎の想いにも気付いただろう。だがそこには触れなかった倉橋に、佐奈は胸中で感謝した。 「オレは……二人の協力がなければ、きっと何も進めず、ぐずぐずとずっと悩んでたんだろうな。本当に情けないよ」 「深山らの場合は特殊だからな。普通でも男同士の恋愛なんてリスクは高いし、想いが通じ合うなんて、漫画見てぇに上手くはいかない」 「うん……」 「その上に、深山たちには兄弟という更に高い壁が存在していた。気楽に想いなんて告げられる間柄ではねぇよ。深山の側に俺がいて、弟がいて。それが深山の持つ運命の力ってやつなんじゃねぇの?」 「運命の……力」  倉橋は大きく頷く。  この男はどこまでも優しい男だ。そう言われてしまえば、そうなのかと思わずにはいられなくなる。いや、そう思わせるのがとても上手い男だ。  倉橋の温かい心に、佐奈の心までもスッと軽くなっていくのを感じた。

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