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第105話

◇  一日の授業を終え、颯爽と帰っていく者や、この後何処に行こうかと集う者とで、教室内は一気に賑やかとなる。  佐奈は元と倉橋と一緒に駅まで帰るため、いつものように教室から出たその時、一人のクラスメイトが回廊から佐奈を呼んだ。 「おーい、深山。お前に用があるらしいぞ」  それだけ言ってクラスメイトは慌ただしく帰っていき、そこに残された人物、女子生徒は佐奈に微笑みを向けてきた。恐らく上級生だろう。 「君が深山くん? なるほどあの深山くんの弟くんは流石レベルが高い!」  まじまじと見つめ、女子生徒は一人で納得したようにしきりに頷く。 「あの?」  いかにもミーハーといった女子生徒。元と倉橋は少し引いている様子。  そして佐奈の困惑した声に、女子生徒は我に返ったようだ。 「あ、ごめんね! 伝言があって」 「伝言……ですか?」  佐奈は思わず倉橋を見てしまった。倉橋も分かる訳がなく首を傾げるだけだ。 「そ。みつくっちゃんが、特別活動室に来てくれって」 「みつくっちゃん?」  誰だ、それは。思わずそう口にしそうにもなる。初対面の人間にいきなり、皆の共通語のように話すのは、相手が戸惑うだけだと知って欲しいものだ。 「あれ? みつくっちゃん知らない? 三國先生だよ……って一年生じゃ知らないか」  女子生徒は楽しそうに笑うが、佐奈は笑えなかった。どうしてもその名を聞くだけで佐奈の胸中はざわつく。  ここで腕を掴まれた。倉橋が心配そうな目を向けてくる。佐奈はそっと目配せをし、倉橋に安心させる。 「あの、三國先生がオレに何の用があるのか聞いてますか?」 「あーあのね?」  女子生徒はマシンガンの如くその理由を語ってくれた。  

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