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第106話

 話によると、今日優作のペンケースが盗まれるという事件が発生したようだ。だが犯人は直ぐに判明した。優作の熱狂的なファンである隣のクラスの女子生徒によるもの。何でも優作の私物が欲しかったそうだ。  そのことについて、家族である佐奈に話があると三國は言っているそうだ。 「なぁ、三國って前に佐奈に結構キツイこと言ってたじゃん。おれ、なんか苦手なんだよな」  元が嫌そうに溢すのを佐奈は苦笑する。  家族である自分に話など、それは口実に過ぎないだろう。きっとまだ何か言い足りないことがあるのかもしれない。  辟易とするし、放っておきたいが、相手が教師とあれば、生徒の自分は従わなくてはならないという心理になってしまう。 「大丈夫だよ。とりあえず話聞いてくるから、悪いけど二人とも先に帰っといてくれる?」 「……分かった。深山、気を付けろよ」  倉橋は佐奈へと頷くと、渋る元の腕を取って先を歩いて行った。  佐奈は二人を見送ると、ため息一つ溢すと目的の場所へと足を運んだ。  先程の女子生徒に教えられた場所までたどり着き、佐奈は教室のプレートを確認した。  生徒会が使う部屋なのかと思ったが、プレートにはそうは記してはいないから、ただの特別室なのかもしれない。  佐奈は今一度大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。  元や倉橋には心配掛けたくなかった為、佐奈は何でもない顔をしていたが、やはり三國の顔など見たくない気持ちが大きい。このまま帰ってやりたくなる。  ノックする手が躊躇していた時、突然目の前の扉がスライドされた。  驚く佐奈の目に、無表情の三國が映り込む。 「中に」  それだけ言うと、三國は佐奈に背中を向けた。

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