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第108話

「あの派手なルックスとは裏腹に、高校生らしからぬ落ち着いた雰囲気。だから余計に周囲の生徒はガキにしか見えなくなる。そんなアイツの目に映りたいと、誰もがそう思っているだろうな。俺もそうだった。でもアイツは他人のことは無関心だからな。だから教師の立場を利用し、少しずつ距離を縮めていった。アイツの興味を引きそうなものを手探りに見つけていき……それを話題に出せば、アイツは嬉しそうに俺だけに笑顔を見せてくれるようになった。とてつもない優越感にも満たされたよ」  三國は佐奈の返事なども全く必要としていないのか、淡々と話す。 「その一方で、アイツの興味を引く話題を出すのが苦痛でもあった。何故か分かるか? アイツは……弟の話をするときだけ笑うんだよ。アイツの口から出るのは弟の名ばかり……」 「……っ」  昏い目が佐奈に向く。目を逸らしたくなるような陰鬱としたものを感じながら、佐奈は身体を動かそうとした。だがまるで金縛りにでも遭ったかのように動けない。  その恐怖感で佐奈の全身に震えが走る。  三國は佐奈から視線を外すことなく腰を上げ、なぜか背広の懐へと手を差し込んだ。  なんだ? という疑問を抱く前にが目に入り、佐奈は我が目を疑った。 「……せん……せい?」  折たたまれていた物を解放すれば、それは薄暗い部屋でも異様な程に鈍い光を放った。 ──冗談だろ?  逃げたいのに動けない。  こういう時は下手に動かない方がいいのだろうが、一つも良い考えが浮かばず、気ばかりが焦った。 「お前を幸せになどしない」  三國の憎々しいという負の感情を目の当たりにした上、恐ろしい言葉を吐かれているのにも関わらず、佐奈の中では何故か逆に、先程の恐怖心が少しずつ消えていくのを感じた。  

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