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第119話

 そんな風に言われれば、首を縦に振るしかない。佐奈がそっと椅子に腰を下ろすと、優作はホッとしたように佐奈の頬を優しく撫でた。 「おっそーい!!」  自宅の玄関を開けると、耳を覆いたくなるような怒鳴り声が出迎えた。  佐奈と優作は肩を竦め、慎二郎に詫びる。 「まさか、二人して何処かで如何わしいことでもしてたんじゃないだろうね?」  慎二郎の鋭い突っ込みに、佐奈は数分前の事を鮮明に思い出してしまい、一気に顔が熱くなる。帰り道も優作の顔は恥ずかしくてほとんど見れていないのだ。 「ま……まさか」  佐奈は顔を隠し、逃げるように洗面室へ向かい手を洗う。夕食の準備にと制服のブレザーを脱いでエプロンを着ける時までも慎二郎はベッタリと付いてくる。  まるで鬼姑のようだ。 「だったら何で遅かったの? ラ◯ンしたのに、返事ないし。心配したじゃん」  顔が赤いことはバレてなさそうだと、佐奈はホッとする。 「ごめんな。先生に頼まれ事されて、それで優作は待っててくれてたから……」 「そうなの? なら、別にいいけど……」  心配してくれていた慎二郎に対して後ろめたさがあったが、半分は〝先生〟に呼び出されていたため、まるっきり嘘ではない。と佐奈は自分に言い聞かせ、苦笑いを溢してしまう。 「ちょっと遅いだけで、そんなに文句垂れてたら、佐奈は学校終わっても何処も行けねぇだろうが。飯も少しは自分で作ろうとは思わねぇのか?」 「う……」  優作に痛いところを突かれ、慎二郎はまるで耳と尻尾を垂らした犬のように、ショボくれてしまった。 「オレもちゃんと連絡しなかったのが悪いし、今度からは気を付けるな」  そうフォローすると慎二郎は元気になったが、優作は「佐奈は甘い」と不満そうであった。  

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