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第124話

 家に帰る列車の中で、佐奈は元と倉橋にメッセージアプリのグループトークに、午後の授業を抜ける旨を連絡しておいた。  日はまだまだ高く、列車の中も平日の昼間とあれば、通勤ラッシュではない時間帯は座ることも可能だ。たった一駅だが、優作と肩を並べて座る。端から見れば、仲の良い友人同士に見えるのかもしれない。  実際の佐奈の胸中は、何一つ落ち着くことが出来ず、ずっと自分のうるさい鼓動を聴いている状態だ。  鞄を胸に抱きしめ、流れ行く景色を眺める佐奈の横には長い足を組む優作。一見落ち着いて見えるが、彼もまた、全く余裕がない事が佐奈には伝わっている。 「降りるぞ」 「う、うん」  もう逃げやしないのに、優作は佐奈の手首を掴むと足早に歩き始める。  本当は優作に言いたい事は沢山ある。  優作の部屋だろうと家であることは間違いなく、どうしても慎二郎の事が佐奈の頭から離れてくれない。だから少しの罪悪感もある。  それに明日と言っていたはずなのに、何故急に今日なのか。  突然過ぎて色々と整理が出来ない中、ふと優作の手が少し汗で湿っているのが分かった。 ──優作が緊張している。  いつも何事に関しても堂々としている優作。こういった事も佐奈とは違って慣れているはず。その優作が緊張している。  それを感じた瞬間、佐奈は歓喜に震えた。    気が付けばずっと目で追っていた人。  些細なことで、嬉しさや幸福を感じたり、また辛くて胸の痛みで苦しんだ日々もあった。  その恋がまさか成就するなど佐奈は考えた事もなかったし、ましてや肌を重ねる日が来るとは想像すらしたことがなかった。それは優作も同じ想いなのかもしれない。  完璧に見える優作も、佐奈の前では完璧を装う余裕がないと分かれば、何もかも許してしまいたくなる。

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