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第4話
「ありがとう。でも入学というよりは、進級に近いかも」
「確かにな」
佐奈が今日から通う高校は、名門校の新城学園。中高一貫校のため〝入学〟という感覚はあまりない。高等部では外部入学もあるが、中等部のメンバーも一緒のため、少し新鮮味に欠けるのだ。もちろん優作、慎二郎も新城学園に通っている。
「佐奈も高校生か。色々心配だな……」
「心配って何が? 勉強なら頑張るし、心配しないで」
「そうだな、それは心配してない」
「じゃあ何が心配?」
「色々だよ」
「だから色々って何なの」
「色々は色々。早く飯にしないと、あそこで睨んでる奴がいるぞ」
話をはぐらかされたが、優作が楽しそうに笑うと、佐奈は嬉しくなると同時に、胸が高鳴りそわそわと落ち着けなくなる。
佐奈は優作が好きだ。兄弟としてではなく、一人の男性として、恋愛の対象として恋をしている。中学へ上がる頃に、自分が兄に特別な感情を抱いている事を自覚した時は、佐奈自身、酷く自己嫌悪に陥った。血が繋がっていないとはいえ、兄弟だ。同性を恋愛の対象として見る自分にも戸惑い悩んだが、よりによって兄を好きになってしまった。
綺麗でカッコよくて、誰もが夢中になる優作。いつか結婚もするだろう。だがそれは決して佐奈ではない。男で弟である佐奈が選ばれることなど、天地がひっくり返ってもないのだ。
しかし自覚してしまった感情は、佐奈自身ではどうにも出来ない。止めることも出来ない。ならこの気持ちは誰にも知られないようにしなければならない。優作本人に知られるなどもってのほかだ。陰でひっそりと想う。それは辛い恋だが〝家族〟を壊してはならないからだ。
「いただきます!」
三人が声を揃え、食卓を囲む。今朝のメニューは舞茸の炊き込みご飯と、具沢山の味噌汁、だし巻き玉子、鮭の塩焼き。塩分の摂りすぎには気を付けて、佐奈は全て塩分控えに作っている。美味しそうに食べてくれる姿は、作った者にはとって一番嬉しいことだ。
「そう言えば、今日は一哉 とアビー帰ってくるんでしょ?」
佐奈の正面に座る慎二郎は、だし巻き玉子を頬張りながら言う。
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