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第5話

「うん、今日帰ってくるってメール来てたよ」 「そりゃ大事な日だもんね」  どこか嬉しそうな慎二郎。そうなるのも佐奈は頷けた。約一ヶ月ぶりに両親が帰ってくるのだ。一哉は佐奈の父親で、アビーことアビゲイルは優作と慎二郎の母親でアメリカ人だ。二人の母親だということを誰もが頷くほどの、とてもグラマラスな美女だ。  そして今や世界規模で展開するコーヒーチェーン【ムーン】のアメリカ本社で、アビーは二年前からCEOとして重責を担っている。日本国内でもムーンコーヒーは有名で、老若男女に愛されていると言っても過言ではないコーヒーショップだ。  実は佐奈の父親、一哉はムーンの子会社であるムーンジャパンのCEOだった。だが今はその座を退き、アビーの秘書として就いている。謂わばラブラブな二人は、片時も離れたくないというのが大きな理由のようだ。  よって二年前からアメリカを拠点として働く両親。佐奈ら三人は、学校や友人など環境が変わることを拒み日本に残っている。息子三人を日本に残すことを、当初両親は渋っていたが、優作が時間を掛けて説得してくれたのだ。 「一哉に関しては、しょっちゅう帰って来てるけどな」  優作が言うのを、佐奈と慎二郎は苦笑いで頷く。 「父さん、最近はマシになってきたけど、去年までは週一で帰って来てたもんね……」  子供だけを残してるのだ。親が心配するのは当然のことだが、せっかくの三人だけの生活を喜んでいた佐奈らにとっては、迷惑でしかなかったが。 「ま、今は信用してくれたのか、頻度は落ちてきたけどな」 「うん」  朝食の後片付けを終え、佐奈は改めて制服を身に付けた。中等部とはネクタイの色が違うだけで、デザインは変わらない。チャコールグレーのブレザーに、グレーのチェック柄のズボン。ネクタイは高等部はネイビーで中等部はエンジだ。優作と同じということが佐奈にとっては密かな喜びでもあった。

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