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第15話

 突き当たりに差し掛かった時、角にある教室から声が聞こえ、佐奈は咄嗟に立ち止まった。プレートを見るとブレイクルームとあり、内心こんな部屋があるのかと佐奈が思っていると、再び開いている窓から声がもれてきた。 「──こんなとこに呼び出して何?」  その声を聞き、佐奈の鼓動は一つ大きく跳ねた。少し冷たい声音ながらも、佐奈が聞き間違えることなどは決してない者、優作の声であった。立ち聞きは良くないと、このまま通りすぎようかと逡巡するも、足が前に出ない。 「だって教室とかじゃ、ゆっくり喋れないでしょ?」  媚びたような女の甘い声に、佐奈は何だか悔しい気持ちになる。女の武器の一つ。嫉妬したところで、佐奈には決して出来ないことだ。しかも声は学生というよりは、大人の女性のようで艶のある声だった。佐奈は嫌な緊張で唇を噛み締める。 「ねぇ、ユウ。名前ね、優作って呼びたいんだけど、いい? ほら誰も呼んでないし」  女がそう訊ねるのを聞き、佐奈はふと自分の記憶を辿った。そして優作が〝ユウ〟といった愛称で呼ばれることが常で、〝優作〟と呼ぶ者がいないということに佐奈は気付く。アビーや一哉、慎二郎でさえもユウと呼んでいる。 「なんで? 深山でいいだろ? 先生なんだから」 「そうだけど、二人の時は呼びたいじゃない」 「二人の時って、恋人でもないのに、別に必要ないだろ」  相手は先生なのかと思う暇もなく、優作の冷たく突き放す物言いに、自分に言われたわけではないのに、佐奈の胸にはチクりと痛みが走った。 「優作と呼んでいいのは、俺の大事な人だけ。用がそれだけなら戻るから」  しまったと思った時は遅かった。佐奈の足は根が生えたかのように微動だに出来ず、扉を開けて出てきた優作としっかり目が合ってしまった。

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