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第16話
出てきた時の優作の表情は冷淡そのもので、佐奈の前では見せたこともない表情 をしていた。しかし佐奈と目が合った途端、驚きの顔になったかと思えば、直ぐに柔和に優しい顔となり、佐奈はホッとした。
「ビックリした。佐奈一人か?」
「う、うん。こっちもビックリしたよ」
いかにも出会い頭というフリをしたが、優作の前で上手く出来たかどうかの自信は佐奈にはない。
「休憩時間はあと少しよ。授業には遅れないでね」
ブレイクルームから出てきた女教師は、優作に対して妖艶に微笑む。教師なのかと疑う程に、スカートは短く身体のラインがよく分かるものを着用している。ロングの髪は緩くウェーブがかかり、メイクは濃いが美人だ。派手というのが佐奈の印象だった。
「佐奈、飲み物買いに来たんだろ? 買ってやるから来いよ」
「え? あ……うん、ありがとう」
女の後ろ姿を見送る佐奈に、優作は意識を自分へと向けるように顔を覗き込んできた。佐奈は色んな感情が混じり、上手く笑えずにいる。
「ほら、佐奈の好きなバナナミルク」
「ありがとう……ゆう……」
名前を呼ぶことに佐奈は躊躇い、最後まで言えなくなってしまう。
〝大事な人〟と優作はそう言った。それは佐奈にとって胸が軋むほどに辛いことだ。大事な人に呼ばせたい名前。それを自分が呼んでいいものなのか。
だが佐奈は家族なのだから遠慮などしなくてもいい立場。しかも〝優作〟と呼べと言ったのは、他でもない優作自身だ。
そう、家族になってまだ間もない頃は、佐奈も普通に『お兄ちゃん』と呼んでいた。
しかし優作がそれを嫌がり、名前を呼ぶようにと半ば強制に近い形で呼ばせた。だからこれは優作本人が認めているのだから、何も佐奈が気にすることではない。
〝優作〟と皆が呼べない名を、呼べる優越感くらいひっそりと感じても罰は当たらないはずだ。
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