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第28話
「オレはいいんだよ!」
どういう理屈だ、と佐奈と優作は共に呆れ顔になる。
「オレも混ぜろ」
「ちょ……慎二郎苦しいよ」
「おい、お前は強引過ぎるんだよ」
久しぶりに三人がじゃれ合うように引っ付き合う。慎二郎のお陰で緊張していることには変わりはないが、佐奈は優作と触れ合えることが嬉しく歓喜に震えそうであった。こんな機会はもう訪れないかもしれない。だから今、この瞬間をしっかり覚えておこう。
佐奈は優作の厚い胸板に頬を寄せ、少し速い優作の心音を、そっと心に刻むように聞いた――。
今日からゴールデンウィークが始まる。慎二郎は友人と映画に観に行く予定があり、優作はバイトだ。佐奈は元と色々と回った後、DVDをレンタルして元の家で観るという予定がある。みんなが揃わない初日というわけだ。
「佐奈ぁ電話鳴ってるよー」
朝食を済ませ、キッチンで皿を洗う佐奈にリビングから慎二郎が呼ぶ。慎二郎に返事をしながら、佐奈は急いで手を拭いてリビングへと行く。
「ほら」
「ありがとう」
慎二郎からスマホを受け取り、画面を見た佐奈の左眉が少し上がる。
「もしもし元? どうしたんだ?」
『あ、佐奈……あのさ……』
親友の申し訳なさそうな声が聞こえれば、全てを言われなくても察しがつく。
案の定、元の実家はラーメン屋なのだが、手伝いに駆り出されてしまったようで、せっかくの予定が流れてしまった。
元の家のラーメン屋は連日、列が出来る程の人気店だ。そのラーメンを昼にご馳走になることが、佐奈の密かな楽しみであった。それだけに、佐奈は少しガッカリしてしまった。
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