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第32話

「深山くん、僕はまだ諦めてないからね」  背中に掛けられる声にも、もう優作は反応などしない。佐奈だけが一人で困惑している。 「ねぇ優作、あの人誰だよ。あんな態度でいいの?」 「いいよ、別に。ただのスカウトの奴だから」 「あ、スカウト!」  佐奈が振り向こうとしたのを察知した優作は、佐奈の頭を抱えるようにして阻止する。 「ちょっと見るくらいいいだろ?」 「ダメ。アイツの目は佐奈にもロックオンしたからな」  とんでもない勘違いだと佐奈は大笑いするが、優作は「まるで何も分かってない」と呆れたようにため息をこぼす。  さっきの男は、超大手の芸能プロダクションの人間だという。佐奈でも知ってる事務所で、ただただ驚愕するばかりだ。  優作が中学一年の時から、ずっと執念のスカウトをしているそう。  佐奈はあの男が少し気の毒にも思えたが、昔から優作はモデルや、芸能界といったものに興味がない。すっぱりと諦めてくれと内心で男に諭した。 「ん~ここのパスタ美味しい!」 「だな」  佐奈はオマール海老のクリームパスタ。優作はホタテとアスパラのバター醤油。トマトとバジルのチーズピザも一品頼み、二人は初めて訪れた有名店のパスタに舌鼓を打つ。  ここでも客やスタッフがこそこそと優作を盗み見している。中にはスマホで料理を撮るフリをして、優作を撮っている者もいる。  優作は自身が注目されるということに対して、まるっきり無関心だ。しかし佐奈は勝手にカメラで撮られることには、いい気はしない。  早くここを出てしまおうと、最後は味わうこともなく、口に詰め込んでいった。 「佐奈、やけに急いで食ってたけど、別に早く家に帰らなくてもいいだろ?」 「う、うん、実は次に行きたくて」 「次? どこ行きたいんだ?」

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