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第34話

「こいつ、よく見たら女みてぇなツラしてんな。本当に男か?」 「お嬢ちゃん、女子トイレと間違った?」  下品な声を上げて笑う二人。一発殴ってやりたいと佐奈は拳を握りしめるが、非力な拳ではダメージなど与えられないだろう。 「もう戻っていいですか?」 「はぁ? ダメに決まってんじゃん。有り金を全部置いていくか、本当に男なのか証拠見せてもらわねぇとな」  低俗過ぎて佐奈はげんなりとする。こういう輩は何を言っても聞きはしないだろう。誰か他にトイレに来る人間を待ちたいが、それもいつになるのか。 「ほら、どうすんだ?」 「お金は持ってません」 「なワケねぇだろ! とりあえず先に下脱げや」 「ちょ……やめろ!」  一人が佐奈を背後から抱えるように拘束し、もう一人が佐奈のズボンを脱がせようとベルトに手を掛けた。必死に足をバタつかせると、後ろの男が更なる力で締め付けてくる。佐奈は苦しさで呻く。 「離せっ! 離せよ!」 「お? 男物の下着ちゃんと履いてんじゃん」 「オレ見えねぇし!」  佐奈の後ろの男が文句を垂れた時、トイレ内に大きなゲーム音が流れ込んできた。佐奈と男らが驚いたようにドアを見る。  入って来た者を見て、佐奈は慌ててずり下がったズボンを上げながら、一瞬で大きな安心感に包まれた。だが直ぐに戦慄が走った。 「ひぃーーヘルプ! ヘルプ」 「ダメだ、優作!」  佐奈を拘束していた男を優作は憤怒の勢いで、胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。佐奈は咄嗟に優作へと突進する。  佐奈の機転で少し軌道が外れ、もろに顔面に入ることはなかったとはいえ、男の頬に優作の重い拳がかすった。それだけで敵う相手ではないと分かったのか、男らは〝sorry〟としきりに叫びながらトイレから飛び出して行く。

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