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第35話
まるで漫画の一場面のようだ。佐奈が日本語で優作を呼び掛けていたのにも関わらず、男らは必死に英語で許しを請う。滑稽とも言えるが、相手が外国人と誤解したお陰で、力の差は歴然と潔く身を引いたことは、利口だと言えた。
「なんで止めた。あんなの殺したって足りねぇだろうが」
「だからだよ。本当に殺し兼ねない顔だった。優作の体格で殴ってたら軽傷で済まないだろ」
優作はジムで鍛えてることもあるが、ジム仲間と遊びでボクシングもしている。だから一般の成人男性よりもはるかに力もある。
そんな優作の拳がまともに入れば、 入院生活を余儀なくされるだろう。
「どんなことがあっても、暴力はダメだ。絶対に」
「……そうだな。悪い」
まだまだ優作は不満そうではあるが、佐奈の想いは伝わったようで、怒りのオーラを鎮めていった。
「助けてくれてありがとう」
「あぁ、怖い思いをさせて悪かった」
怖い思いをした佐奈よりも優作は辛そうだ。
佐奈をそっと腕の中へと収めたかと思えば、力強く抱きしめてくる。少し苦しいとも思える程で。
弟の危機に、ここまで心配する兄はきっと優作だけなのだろうと、佐奈は優作の腕の中で家族としての幸せを感じながらも、モヤモヤとしたものが混じっているのも感じていた。
それから二人は何となく重い空気の中、帰路に着いた。
「悪い佐奈、電話だ」
自宅の最寄り駅に着き、改札を出るまでのホームで優作が申し訳なさそうに、スマホを佐奈に見せた。佐奈が頷くと優作は直ぐに電話に出る。
一、二分ほど話し、電話を終えた優作は佐奈に向かって謝罪のポーズで両手を合わせた。
「悪い! バイト入ってる奴がケガしたみてぇで、一時間だけ入って欲しいんだってよ」
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