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第39話
「そんな顔してる?」
佐奈は自分の両頬を緩く引っ張る。
「なんか元気ないっていうか、なぁ?」
「おぅ。特にゴールデンウィーク終わってからは時々ボーッとしてるし」
倉橋に頷く元は、佐奈の肩を労るように軽く叩いてきた。
「あ、もしかして、おれのドタキャンで怒ってるとか? あれはマジで悪かったって!」
元が突然勢いよく佐奈に頭を下げたせいで、回廊にいる多くの生徒が何事かと注目する。その中でも倉橋のルックスが目立つこともあり、女子の視線には熱が籠っていくのが佐奈にも分かった。
「いや、全然……」
元に否定するつもりで口を開いた佐奈だったが、数メートル先の回廊から優作が歩いてくるのが目に入り、口を閉じた。
元と倉橋もそれに気付き、そちらを注視する。
この学園内ではよく優作を見かけると佐奈は思ったが、違う。優作が目立つからだ。
そしておまけとばかりに、優作の隣を歩く者に皆は気付いていく。控え目ながらも、妖艶で目を奪われる美しさ。男のくせに妙に赤く見える唇。優作の担任である三國だった。
「あの先生、よく深山先輩といるの見かけるよな」
元が言うのを倉橋は頷く。ごった返す回廊の人混みに紛れ込むように、佐奈は優作に気付かれないようそっと俯き、元らの陰に入った。
もう少しですれ違うといったとき、不意にどよめきが起きる。どうしたのかと佐奈が顔を上げると、三國が優作の腕の中にいるのが目に入った。
「おい、大丈夫か?」
「ご、ごめん。ちょっとめまいがした」
優作の広い胸の中に収まる華奢な三國。どうやらふらついた三國を優作が支えたようだ。
周囲が静観している中、佐奈の心臓の鼓動がやけに大きく響いている気がして、佐奈は居たたまれなくなる。
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