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第40話

「保健室で寝るか?」  優作の優しい声音。女子生徒からの羨望の眼差しを一身に受ける三國は、優作から少し離れるが、腕は掴んだままだ。そして優作を見上げ、首を振る。 「大丈夫。低血糖になってふらついただけだから」 「朝飯を抜くからそうなるんだろ。ほら、ちゃんと掴まれ」 「ありがと……」  どれだけ注目されようが、優作の目には三國しか入っていない。まるで二人だけの世界。何故か佐奈の目にはその様に映った。  少し上気したような三國の顔。その顔が一瞬佐奈の方を見たかと思うと、緩やかに口角が上がった。だが顔は直ぐに逸らされ、三國は優作に支えられながら生徒の波に呑まれて行った。 「なに……?」 「お? 深山、そんなところにいたのかよ。早く行かねぇと良い席とれねぇからな、急ぐか」 「そうだな! 佐奈遅れるなよ」 「うん……」  小走りになる二人の後を追うが、佐奈の頭の中はずっと三國の顔で占められていた。  あれは偶然に目が合っただけなのか。優作でさえ気付いていなかった佐奈の存在。それを一度も関わったことがない教師が佐奈を見る。  しかし回廊には多くの生徒がいたが、佐奈と三國の距離は、二メートル程しか離れていなかった。それほどの近距離であれば、自分と目が合ったということに間違いはなさそうだと佐奈は思い直す。  ただ目が合っただけなら、佐奈も気にならない。だがあの時の三國の表情が、どうにも〝先生〟がする顔ではないように佐奈は感じた。  一体なぜ三國は笑ったのか。一体何に対しての笑みだったのか。佐奈の心に小さく燻るものが籠り始めていった。

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