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第44話
そして眩しそうに閉じられていた瞼が持ち上がる。紺碧の美しい目が佐奈を捕らえると、その身体がゆっくりと起き上がった。
「悪い……寝てたみたいだな」
「うん、珍しいね。もしかして何処か体調でも悪い?」
途端に心配になった佐奈は、優作の額に手を当てる。少し熱いような気もするが、風呂上がりということもあり、何とも言えない微妙なものだ。
「大丈夫。今日のバイトで、余った時間に身体動かしすぎて、きっと疲れたんだろ」
「そう?」
身体を動かしすぎだからといって、寝てしまうほど疲れるなど珍しい。佐奈が優作をじっと見つめていると、突然優作が佐奈の腰を片腕で抱えてきた。
「わっ! なにっ」
そのままボスンと、佐奈は優作の隣へと座らせられる。そして肩に掛けていたバスタオルで優作は豪快に佐奈の髪を拭く。
「佐奈こそちゃんと乾かさねぇと、風邪引くぞ」
「う、うん。分かってるけど……」
「ほら、ドライヤー持ってこい。乾かしてやる」
「そこまでしてもらわなくても――」
佐奈が振り向くと、優作は顎をクイと上げる。それは〝取ってこい〟と言う静かな命令だった。
佐奈は黙ってソファから降り立つと、洗面室へと急いだ。
「はぁ……気持ちいい」
慎二郎はいま風呂に入ったばかりだ。暫くは優作と二人きり。
優作の大きな手で髪を撫でられると、例えばそう、自分が猫だとすれば、ごろごろと喉を鳴らしていそうな程に嬉しくて気持ちいい。
「佐奈のシャンプーの匂い好きだな」
背中に優作の体温を強く感じる。優作が更に佐奈へと身を寄せたのだ。
佐奈は一瞬息をするのを忘れ、固まってしまうが、それが更に優作の気配を感じてしまうことになる。
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