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第45話
「ゆ、優作のシャンプーの匂いも好きだよ。爽やかなマリン系の香りで――」
「ん? 何だって?」
佐奈の背中に、ついには優作の身体が密着する。しかも優作の顔が佐奈の顔の直ぐ横にある。もう佐奈の身体は硬直してしまっていた。
「……だから優作のシャンプーの匂い」
「そのあと」
「そのあと?」
「シャンプーの匂いが?」
「好き……?」
答えたのにも関わらず優作の反応がないため、佐奈は思わず顔を横に向けた。
間近で目が合い、佐奈の目が驚きで大きく見開かれる。そしてボッと火が着いたかのように、佐奈の顔が瞬時に赤く染まった。すると優作の眉が徐々に歪な形となり、ついには肩が震え始めた。
「ちょっと……なに笑ってるんだよ!」
「いや……クク……可愛いなって」
「可愛いって何が!」
羞恥でどうにかなってしまいそうだと、佐奈は逃げようと腰を浮かすが、そうはさせるかと優作が後ろから抱き込むように佐奈の身体をホールドしてきた。そうされてしまうと、佐奈には脱出不可能となる。
「離してよ優作! だいたい男が可愛いって言われて喜ぶとでも思ってんのか!?」
「悪い悪い」
全く悪いとは思ってないことがよく分かるほどに、優作はずっと笑っている。
佐奈は自分のお腹に回された優作の腕を必死に叩くが、本気で怒っているわけではない。怒るどころか、嬉しい、楽しいの気持ちの方が勝 っている。
「そろそろ慎二郎が風呂から上がってきそう」
「そうだな。〝仲良く〟してたら、うるさいからな」
苦笑いしか出て来ない佐奈の頭を優作は撫でると、そのままリビングから出て行く。
その背中は、三人で仲良くする気はないという、頑なな意志というものが佐奈には見えた――。
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