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第49話
優作と三國が保健室から出ていくのを、佐奈はただ一人見送る。
佐奈の中の黒いものが、また一つ弾け、燻りが広がっていく。先生と生徒という間柄のはずなのに、何故か二人の仲を見せつけられたように感じてしまう自分の狭量さに、佐奈はショックを受けた。
「何でこんなにモヤモヤするんだ……」
ただの思い過ごしであればいいがと、佐奈はチャイムが鳴ったことで急いで教室へと戻った。
一日最後の授業を終えるチャイムが鳴る。佐奈は鞄を引っ掴むと、教室を飛び出た。
「おい、深山待てよ!」
回廊を走る佐奈の後ろから、倉橋と元の声が追い掛けてくる。
「佐奈、どこに向かってるんだ?」
「三國先生のところ」
「三國? なんで?」
階段を駆け降りる佐奈に、倉橋と元が追い付く。そして幸運にも二階を歩く三國を見つけた。
「三國先生!」
生徒で溢れる回廊。佐奈の声が届いたようで、三國は声の主を探すように当たりを見渡している。そして佐奈を見つけた三國は、口元だけの笑みを見せた。
「あぁ……深山くん。どうかしたのか?」
「今日は兄のこと、ありがとうございました」
三國の前に立った佐奈は軽く頭を下げ、礼を言う。しかし三國は少し眉間にシワを寄せる。
「別にお礼を言われるようなことはしてないよ?」
「いえ、兄が世話になったので、お礼を言うのは当然だと思いますので」
「……そう」
「では、失礼します」
佐奈は笑顔で三國に頭を下げ、身を翻した。
「ちょっと待って」
呼び止められ、三人揃って三國へと振り向く。
「深山のこと、どうしてもっと早く気付かなかったんだ? 一緒に住んでるんだろ?」
「……それは、オレも反省してます」
「お、おい、なんで深山が――」
倉橋が佐奈の腕をぐっと掴む。少し怒ったその顔に佐奈は首を振った。
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