52 / 141

第52話

 優作の頬に触れる佐奈の手に、高熱だということが伝わる。明日にもまだ熱が下がらないようであれば、往診を頼むつもりだ。  というのも、一哉の親友が近くで開業医をしている。葛西と言って、時折三兄弟の様子を見に来てくれ、優しく面倒見のいい男で佐奈らも信頼している。  本当は今すぐに呼びたいが、既に薬も飲んでいる。呼んでも恐らく葛西のすることはあまりないだろうと、佐奈は連絡をすることをやめた。  佐奈は自室に戻ると部屋着に着替え、夕食を手早く作った。途中、慎二郎も帰宅し、優作の状況を知ると少し心配そうな顔を見せたが、夕食後はずっと部屋に籠っている。  佐奈はとりあえず家事を済ませると、ようやくと優作の元に来ることが出来た。 「早く着替えさせないと……」  慎二郎にも手伝ってほしいところだが、きっと嫌がるだろうと思い、佐奈はため息一つこぼすとトレーナーの袖を捲った。 「優作、ちょっとごめんな」  布団をそっと捲るとカッターシャツ姿で優作は寝ている。ブレザーを羽織る今時分には、優作はカッターシャツの下には何も着ない。そのため、シャツのボタンを外すといきなり地肌が現れ、佐奈はドキリとする。  余計な事を考えるのをやめ、佐奈は温かいタオルで身体を吹き、スウェットのトップスを着せようとするが、思ってた以上に意識のない人間の身体は重かった。 「おも……い……。やっぱり一人じゃムリだ」  意を決し、慎二郎に協力を仰ごうと佐奈がベッドから足を下ろしたとき、優作が少し唸った。  起こしてしまったようで、優作の目が少し開いてしまう。しかし、熱のせいなのか目は虚ろとしていて、はっきりと目が覚めたのではない様子だ。 「優作?」  少し顔を覗き込んで呼びかけるが、やはり反応が薄い。だが、優作の目は佐奈に焦点が合ってるようだ。

ともだちにシェアしよう!