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第53話

 すると優作は佐奈にふんわりと微笑んできた。まだ朦朧としているようだが、自分だと分かってくれたのかと思い、佐奈は笑みを返す。 「優作、着替えをしたいんだけど、ちょっと身体起こせる?」  佐奈がそう訊ねるも、優作には声が届いていないのか反応しない。  その時、優作の手が佐奈へと伸びてき、驚く間もなく佐奈は優作のベッドの中へと引っ張り込まれた。 「ゆ、優作!?」  はだけた優作の熱い素肌が、佐奈にぴったりと密着する。それほどにきつく抱きしめられている。  慌てた佐奈は優作の腕の中で必死にもがいた。 「優作……ちょっと……優作、離して」  やっと声が届いたのか、優作の腕が弛み佐奈はホッとしたが、それは一瞬だった。  佐奈を囲うように両手を付き、上から優作が見下ろしてくる。これは一体どういう状況なのだと、佐奈はパニックになる。 「綺麗だな……」  熱く潤んだ紺碧の目に、掠れた甘い声。感嘆とも言えるため息混じりの呟き。  佐奈はここでスッと心が凍り付く思いをする。 (優作、誰かと間違ってる……)  綺麗だと呟く相手は決して佐奈ではない。優作の〝大事な人〟だ。  佐奈の目には優作しか映らないのに、優作の目にはいま別の人間が映っている。これほど辛いことがあるだろうか。  悲しさで小さく震える唇を噛み締めた時、佐奈の目がこれ以上は開かないという程に見開かれる。 「んっ……!?」  驚き固まる佐奈の唇に、熱く柔らかいものが重なる。そして佐奈の下唇を食むように吸ったり、唇を舌で擽ったりと、徐々に徐々にその行為に熱が籠っていく。

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