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第55話

「……優作?」  身体をソッと揺さぶってみるが、やはり反応はない。佐奈は半ばホッと息をつきながら、ゆっくりと優作の下から苦労しながらも脱け出した。  そして佐奈は美しい顔をソッと窺うように見る。金の長い睫毛は伏せられ、再び夢の中へと落ちた様子の優作。その優作の顔を佐奈は暫く眺める。  キスをされたときは、例えようもないほどの至福のひとときであった。しかし今は胸がひどく痛む。夢のような一時から一気に目が覚め、現実を知らされる。  自分ではない誰かのための優しいキス。それを受けて嬉しいと感じていたと思うと、虚しさは余計に募るばかりで。  佐奈の目からは熱い雫がこぼれ落ちる。必死にそれを拭いながら、佐奈は優作の着替えを何とか終えた――。  一睡もすることが出来ず夜が明ける。献身的に優作の汗を拭ったり、熱冷ましの交換、水分補給。心配もあり佐奈は眠れなかった。だが大半は不安定な心のせいでもあった。  確かに重なった優作の唇。しかもただ重なっただけではなく、深く佐奈の中を探っていった熱い舌。思い出すだけで、佐奈の下腹部が熱くなり、その度に自己嫌悪で沈んでいく。 「ちゃんと拒めば良かったんだよな……」  誰に言うわけでもなく自室でぼそりと呟き、佐奈は気持ちを切り替えるように、両頬を叩いた。  泣きすぎて目が腫れているかと思ったが、大したことはなく佐奈は鏡に映る自分を見ながらホッとした。 「っ……優作」  部屋を出た途端、優作と鉢合わせになり、佐奈は必要以上に驚いてしまった。 「佐奈、おはよ」 「おはよう」  優作の顔色は良く、それでいてどことなく上機嫌な様子だった。佐奈は気持ちがバレないよう振る舞い、優作の額に手を置いた。  

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