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第56話
「うん、熱は下がったみたいだね。でも今日は安静にして寝ておいて」
「いいよ、もう大丈夫だし」
上機嫌から一転、優作は少し不満そうに眉を寄せる。
「だーめ! またぶり返すと余計に長引くから、今日は絶対安静です」
「ん? 佐奈、お前ちょっと目が赤くないか?」
話を逸らすようにグッと顔を覗き込まれた佐奈は、一歩引いて優作の胸を押した。
「一晩寝ずの看病だったからだよ。だから今日はちゃんと寝ておいて! 学校には連絡入れておくから」
「悪い……。ありがとな、佐奈」
「うん、分かってくれたらいいんだよ。ご機嫌になるほど回復してくれて安心したから」
朝食準備のためにキッチンへ向かう佐奈に優作はついてき、一緒にサーキュラー階段を降りていく。
「まぁな。久しぶりにぐっすり眠れたし、そのお陰か、すげぇいい夢が見れたからな」
「へぇ……」
やはり優作は覚えてなかった。安心しながらも、少し期待していた自分に佐奈は笑いそうになった。〝いい夢〟と言われれば、あり得ないことにどうしても希望を抱いてしまう。それなのにバレたくない。厄介な感情だ。
「いい夢って、好きな人でも出てきたの?」
優作は何も悪くないのに、佐奈はつい刺のある物言いをしてしまった。
「え……あぁ、いや……」
随分と歯切れの悪い優作に、佐奈は沈んだまま優作へと振り返る。その顔は決まりが悪そうで、佐奈からも目を逸らしている。
胸を押さえたくなるほどの痛みが走った。優作にこんな顔をさせる相手が羨ましくて憎い。せめて自分が女であればと考えたところで、優作には大事な人がいるのだ。この場にいないのに、照れくさそうな顔をつい見せてしまうほどの人間が。
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