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第58話
「どう……なんだ?」
少し怒ったような声音。佐奈はそれが癪に障った。
「だったら何だよ! 例えそうだとしても、優作に言ったところで解決できるもの? そうじゃないだろ? オレにはオレの悩みだってあるんだ!」
佐奈は直ぐに身を翻し、風呂場の暖房を入れるとキッチンへと逃げ込み、冷蔵庫の前で蹲った。
「どうしよう……優作に怒鳴ってしまった。優作は何も悪くないのに……最悪」
「おはよ、佐奈」
「っ!?」
驚き過ぎて佐奈の肩が大きく跳ねる。そしてゆっくりと顔を上げると、慎二郎が無表情で佐奈を見下ろしていた。
「おはよ……慎二郎。びっくりした……」
「水飲みたいから、そこ、退いて欲しい」
「え……あぁ! ごめん」
佐奈が慌てて腰を上げ場所を譲ると、慎二郎は無言で冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。しかし口を付けず、キッチンカウンターにペットボトルを置くとそのままキッチンから出ていった。
いつもなら佐奈に抱きつき甘えてくる慎二郎が、怒りの感情を抑えていたように佐奈は感じた。
「聞いてたよな……あれは」
朝から大きな声を上げ、空気を悪くしてしまったことに佐奈は申し訳なく思った。
朝食も三人で摂ったが会話など全くなく、静かすぎるものになった。
優作の体調は万全ではないため、消化に良いものを昼食用に作っておき、レンジで温めればいいようにもしておいた。話したのはその昼食のことだけだ。
皿洗いを終えると佐奈は電話の受話器を上げた。優作が休む事を連絡するために、学校へ電話を入れ、繋いでもらうのは三國だ。
「おはようございます。深山です。昨日は――」
『おはよう。それで深山はどうですか?』
余計な事は聞きたくないとばかりに、三國はあからさまに佐奈の言葉を遮り、優作の事を心配する。
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