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第60話

 学校へ行っても、佐奈が考えてしまうのは優作のことばかり。なぜ今朝優作は怒ったような口調だったのか。あれではまるで、佐奈に好きな人がいれば不満と言っているように聞こえる。  佐奈には恋は早いと言いたいのかと思ったが、優作に限ってそんな頭の固いことは言わないだろう。なら、佐奈の態度に腹を立てたとしか思えない。  佐奈は益々憂鬱となり、ため息が重くなる。 「深山!」 「……え?」 「ちょっと来て」 「ちょ、おい、倉橋」  驚く佐奈を無視し、倉橋は佐奈の右手首を掴んでぐんぐんと引っ張っていく。階段を降りるのも足の長さの違いのせいで、佐奈は階段を踏み外しそうになっている。 「何処行くんだよ」  五限目終了のチャイムが鳴るや、突然に腕を引っ張る倉橋は、ずっと黙ったままだ。  そして連れてこられたのは、校舎の裏手のガーデン。こんな時間では誰も出歩かないため、静かだ。 「倉橋、なに? わざわざこんなところに……」  佐奈は初めて訪れる裏庭だ。結構な広さがあり、等間隔に美しい花壇とベンチがある。外で弁当を食べるには最適な場所と言えた。 「深山、大丈夫か?」 「へ?」  キョロキョロと辺りを見渡していた佐奈に、投げ掛けられた言葉。素っ頓狂な声を上げる佐奈に反し、倉橋は少し深刻そうだ。  佐奈は倉橋にちゃんと向き合う。 「倉橋?」 「ちょっと最近の深山は見てるこっちが辛いっていうか……。なんか悩んでるだろ?」  佐奈は咄嗟に首を振る。しかし倉橋はそれにはとり合わない。 「三國のことや、特にお兄さん」 「……」  ヒヤリと急速に佐奈の全身が固まる。何故ここで三國と優作の名前が倉橋の口から出るのか。佐奈は取り繕う事も出来ず、誤魔化すように笑うしか出来なかった。

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