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第61話

「深山さ……あのお兄さんの事が好きなんだろ?」 「……は?」 「だから〝優作兄さん〟のこと」 「な、何言ってるんだ? そんな冗談言うならオレは戻る」  佐奈にはこういう時に、上手く切り抜けるための機転というものが全く働かない。ただただ青ざめるだけで。  身を翻して逃げる佐奈の手首を、倉橋はがっしりと掴んできた。 「離してよ」 「ごめん深山! 言い方が悪かった。これじゃフェアじゃないよな」  睨み付ける佐奈に、倉橋は深々と頭を下げる。手首はしっかり掴まれたままで振り払うことが出来ない中、倉橋が顔を上げ、真っ直ぐに佐奈の目を見つめてきた。  それはとても真摯な目だった。 「フェア……じゃない?」 「あぁ。俺さ、ゲイなんだ。男しか好きになれない」  倉橋はあっけらかんとしたように言う。そのため佐奈は直ぐに反応出来ず、ただ立ち尽くすのみに。だが、倉橋はそんな佐奈を気にした様子も見せず、片笑みをした。 「で、何が言いたいのかってことだけど。俺さ、初めて深山を見たときに、すげぇタイプでいいなぁって思ってたんだ。ごめんな。こんな風に見られてただなんて、気持ち悪いだろ?」 「ううん! ビックリはしたけど、気持ち悪いだなんて思わない」  佐奈はそこは強く否定し、首を振った。 「ありがとう。深山のそういうところが好きだな」 「あ……でもオレは……」  真っ赤になって口ごもる佐奈に、倉橋は豪快に笑った。 「ごめんごめん! 深山のこと好きだけど今はもう諦めてるから。本格的に好きになる前で良かったよ。だって、深山が見てる人は俺なんか足元にも及ばないような人だしさ。どう頑張ってもムリだし。でも深山が心配でさ……最近辛そうな顔しか見てないし」 「あ……」

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