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第63話
「だから深山。どうしても辛くなってムリになった時は俺を頼ってほしい。俺に頼ったところで何の解決にもならないかもしんねぇけど、一人で抱え込むより、誰かに聞いてもらうだけでも楽になれるときがあるからさ。とにかく俺には遠慮はするなよって言いたいんだよ」
無理に踏み込もうとしないその領域を、倉橋は良く心得ているものだと佐奈は強く実感する。
実際、少し気持ちが楽になっている。話を聞いてもらうかは別にしても、もう一人で悩まなくてもいいんだと思うと、それだけで佐奈の心が救われた気がしたのだ。
「ありがとう……。なんか色々混乱もしてるけど、すごい嬉しいよ……」
「な、泣くなよ……」
「ごめん……泣いてるつもりはなかった」
佐奈が落ち着いてから教室に戻ったために、六限目を遅刻したのは言うまでもない──。
学校が終わると佐奈は急いで買い物を済ませ、帰宅した。夕食の準備をとキッチンへ向かうリビングの扉を開けると、優作がテレビを見ており、佐奈は驚く。
「優作、寝てなきゃダメだろ」
「佐奈、おかえり」
優作はチラリと佐奈を見るだけで直ぐにテレビへと意識を向ける。佐奈は荷物をその場に置くと優作の前に立った。
優作は怪訝そうに佐奈を見上げる。
「熱は?」
「もうないよ。大丈夫」
優作の額に触れていた佐奈の手を、優作はそっと外す。確かに少し触れた感じでは、熱は無さそうだが。
「それに一日何もせずベッドにいるってのは、退屈すぎてさ」
「分かるけど、今日くらいはちゃんと安静にしてほしかったよ」
「それより……」
紺碧の目がやっと佐奈を見る。まだ朝からのぎこちない空気は払拭出来ておらず、佐奈は少し気まずい思いをする。
「な、なに……?」
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