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第65話
佐奈が原因でなければ、慎二郎はきっとあの様な言い方はしなかったはずだ。きっちりと否定していたはず。
佐奈は重くなる頭を支えるように額に手を置くと、重いため息を一つ溢した──。
あれから一週間経つが、相変わらず深山家には重い空気が漂っている。
慎二郎は以前のように、佐奈には触れてこなくなった。優作はあの続きを言う気配もみせない上、学校から帰ってくるのが毎日遅い。バイトがある日だと顔を合わすのは数分しかない時もある。
どんどん歯車が合わなくなっているようで、佐奈の気持ちも沈んでいくばかりだった。
「そういや、噂で聞いたんだけどさ、深山先輩が放課後、美術部でモデルやってるって。本当なのか?」
「え?」
昼休みの食堂。佐奈と倉橋は同時に弁当、定食から顔を上げ元に注目する。
「いやさ、二年の先輩が言ってるのをうちのクラスの女子が聞いたみたいだけど、騒ぎにならないよう口止めされてるらしいぞ」
「口止めって。もうここで漏れてる時点で口止めにもなってねぇし。まぁ、でも見学とかそういう事は出来ないようにはしてるかもな。で、どうなんだ? 深山」
トンカツ定食のキャベツを咀嚼しながら、倉橋は軽い感じで訊ねてきた。佐奈はそれに首を振る。
「知らない。聞いてない」
本当にここ一週間は会話らしい会話もしていない。佐奈にとっては寝耳に水といったところだ。
「ま、本当だとしても、倉橋の言うとおりに見に行くのは止めた方がいいよな」
元は一人で納得したように、カレーライスを口の中へと掻き込んでいった。
その横で佐奈は思案に暮れる。今までなら簡単に本人に訊けた事が、今では訊くことに勇気がいる。
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