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第66話
佐奈と対面する倉橋は心配そうに、そっと佐奈を窺う。その視線に気付いた佐奈は、笑みを浮かべ頷いた。大丈夫だよと。
倉橋は決してしつこくはせず、佐奈が大丈夫だとサインを送れば納得してくれる。
ただ心配ばかり掛けてしまうことに、佐奈は気鬱になっていた──。
放課後になり、元と倉橋には優作に用があるからと先に帰ってもらったが、佐奈は教室で三十分近くも一人で悶々としていた。
見に行きたい。邪魔にならないよう、ソッと覗いていくだけでもしたい。優作がどんな風なポーズで画かれているのか見たい。
だがその反面、見に行くのが怖いという思いもある。モデルなど、嫌がる事を優作が引き受けている理由。それは優作の〝大事な人〟がいるからなのではと頭を過るからだ。
「はぁ……やっぱ帰るか」
「お? なんだ深山、まだいたのか。何してるんだ?」
佐奈が驚きながらも声の主を見ると、扉から担任の村田が顔を覗かせていた。
「村田先生、いま帰ろうと……」
「そっか。あー……その前にちょっと頼まれてくれないか?」
佐奈が首を傾げると、村田は少し媚びるように笑った。
「こういう事を断れない自分が嫌だ……」
佐奈はぶつぶつと溢しながら、体育館へ向かう。村田は呼び出しがあったようで、代わりにバスケ部顧問にプリントを渡して欲しいと頼んできたのだ。その代わり、普段は使用してはならない非常通路を通っても構わないと言う。
非常通路は二階から裏庭を挟んで体育館まで直接渡れるようで、普段の遠回りの事を思うとかなりの最短ルートで時間短縮にもなる。
佐奈は二階まで掛け降り、非常口のドアノブを回した。すると抵抗なく開く。村田の言っていた通り、こちら側は鍵が設置されていないようだ。
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