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第70話
だから優作が佐奈に間違えてキスをした時、優作は『綺麗だな』と呟いのかもしれない。三國なら、綺麗という表現を使うことには、納得してしまうからだ。
ただ、二人が付き合っているのなら、なぜ三國は佐奈を嫌うのかが分からなかった。やはり佐奈の気持ちに三國が気付いている。それが三國にとって気に食わない……。
ここまで考えて佐奈は一気に虚しさに襲われる。どちらにせよ、考えたところで、優作とはこの先結ばれることは決してないのだ。
だから今回のことがいい機会なのかもしれない。幾度となく諦めようとしたが、気持ちと言うものはそう簡単にはいかない。それは身をもって経験をしてきた。
だからこそ、これからはもう何も期待などはしない。してはいけない。どんな些細なことでもだ。
「どうりで……」
「なに?」
慎二郎がぼそりと呟くのを佐奈が問いかけるが、慎二郎は何かを考えている。そして慎二郎は、徐に佐奈の顔を見る。
「あのさ、ユウに好きなやつって、あり得ないんだよな」
「……何で? 優作にだって好きな人くらい出来るだろ?」
「そうだけど、でも佐奈が言ってる〝好きな人〟は絶対にないから」
ムスッとしたように、だが断言するような物言いで言うと、慎二郎はリビングに入っていく。
「どういう意味? それに絶対にないって何を根拠に」
慎二郎の後を追う佐奈。そしてソファに鞄を投げるように置いた慎二郎は、佐奈へと振り返る。
「根拠? オレと一緒だからだよ」
その顔は今まで佐奈には見せたことのないものだった。真剣で揺るぎない、力強い意志がこもった瞳。その気迫に佐奈は息を呑んでいた。
その中で、慎二郎と一緒というのも何を根拠にと疑問に思ったが、きっとまた佐奈だけが知る事が出来ないことなのだろう。
そのことに佐奈は唇を噛んだ。
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