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第71話

「慎二郎はそう言うけど……やっぱり優作には好きな人いると思うよ。だってこの前、間違えられたから」 「間違えられた?」  慎二郎が怪訝そうに眉を寄せる。佐奈はいかにも困ったと言わんばかりのような顔を作り、頷いた。 「そう。ほら、優作が熱を出したとき、オレが看病してたのに、好きな人と間違えたのか、ベッドの中に引き摺り込んできてさ。しかも口説いてきたんだぞ。兄に口説かれるとか、どんな罰ゲームだよ」  キスのことは伏せ、佐奈は悲劇を装いオーバーに項垂れる。 「マジかよ……何してんだ……」  呆れたように慎二郎はボソリと呟く。 「なに?」 「何でもない。ただそれは、あれだよ。ユウは特定の女なんて作らない奴じゃん。綺麗な女がいたら、くせーセリフ吐いて口説いてそうだろ? だから絶対に好きな人ではない」 「そうかな……優作が手当たり次第に、自ら女性を口説くなんてしないと思うけど。慎二郎だって知ってるだろ? 優作は他人にはすごくドライだって。好きな人なら別だろうけど」  あの時の優作の目は、熱のせいもあるとは思うが、とても愛おしそうな目をしていた。甘い声で囁いて。  しかも翌日に、優作本人に好きな人かと佐奈が訊ねると、照れくさそうな顔を見せていた。あれが見間違えだとでも言うのか。佐奈にはとてもそうは思えなかった。 「とにかくモデルの件でのことならさ、そいつのことは好きじゃないってことが分かる方法はあるぞ」 「分かる……方法?」  佐奈が怪訝そうに訊ねるのを、慎二郎は自信ありげに頷いた。 「それは、ユウにモデルやめろって言うだけだ。佐奈が言えば絶対やめるから」 「……それはムリだって。だって優作は頼まれてるんだぞ?」

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