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第5話

 俺の彼氏は変態だ。  どのくらいかって? それは自分の誕生日の朝、寝起きで頭も覚醒していない俺に向かってバサバサと信じられないものを投げつけたあげく、 「猫耳、猫尻尾につけたメイドさんに『お帰りなさいませご主人さまv』って言われてーな」 とぼそっと呟いて仕事に行くくらい。  タケシが去って、しばらくしてようやく目の前に広げられたアダルトグッズに気づいたあげく、顔を赤面させ 「このド変態が!」 と、何度言ったかわからない言葉を吐き出したのも、もうこれは言うまでもない事実。 * * *  変態タケシと付き合い始めてから、二度目のタケシの誕生日。このマンションで一緒に暮らしはじめてからは、初めてのタケシの誕生日。  仮にも俺の彼氏であるから誕生日を祝ってやるのは当然で、そのために慣れない料理やこんな豪勢なケーキまで用意した。プレゼントだって、タケシがよく身につけている香水を用意した。  ならばもういいんじゃないかと思うのも事実。  けれども、どっちにしろ誕生日だからというあるのかないのかわからない理由で、結局はタケシの思う通りにさせられるのもきっと真実。  そうだとすれば、タケシの望むとおりに出迎えてやってもいいかと思わなくもない。  ここまで幾度となく女装をさせられてきたわけだし、婦人警官の時なんてあのままなし崩し的にヤラレてしまった。そう思えば、たかだかメイド。たかだか猫耳。変態街道に足を突っ込んでしまった身としては大したことはないのかもしれない。  それでも俺を悩ませるのは、タケシの思い通りに行動することに対する反抗心と、この猫尻尾。 「いや、これはさすがに無理だろ……」  タケシが置いて行った猫の尻尾はふさふさとしてさわり心地はとても良い。  問題はさわり心地でも何でもなく、その尻尾の根本にある。  尻尾には普通こんなものついてねぇよと文句を言いたくなるものの、アダルトグッズというのは男のロマンを詰め込んで出来上がる品物であるせいか、そこには男性の象徴を模ったものがここぞとばかりのその存在を強調している。  タケシのものに比べたら何でもない大きさのソレではあっても、それをあの場所に突っ込んだ挙句、猫耳、メイド服で「お帰りなさいませご主人さまv」と口走ってしまえば、おそらくきっともうこっちの世界には帰ってこられないだろう。  タケシと一緒に変態街道に落ちる?  どう考えてもあり得ない。 「ぜってー、無理」  尻尾はなかったことにしよう、と、猫耳メイド服だけにしようと、立ち上がったとき、俺の携帯がふるふると震えた。  メールの差出人は、タケシ。 『今から帰る。猫耳、猫尻尾つけたメイドさんにお帰りなさいご主人さまって言われてーな。』  朝聞いた言葉と全く同じ言葉が連なる。 「いやいやいやいや、血迷うな俺。ここで言う通りにしたら、俺も変態街道まっしぐらだから」  いくらタケシが好きだからと言って、無理なものは無理。  猫耳、メイド服を着てやるだけでもかなりの譲歩だ。  そう思いながら、タケシが用意した本格的なメイド服に袖を通す。黒が基調のその服は、幾重にもパニエが用意されているのに、なぜだか尻の部分だけが一様に小さな穴があいていた。黒のスカートからその部分だけがぽっかりと切り取られ、どこか心もとない。 「これはもしかして、尻尾用……?」  白いニーハイソックスまではき、猫耳カチューシャをセットした後、くるりと鏡の前で翻れば、穴のあいたその部分だけがやけに目立つ。  物は試しと、ひとつだけ残された猫尻尾をその部分に通してみれば、それはぴったりとスカートにハマった。  マジかよと溜息をつきたくなると、また俺の携帯が鳴る。やはりタケシからで文面はもちろん、 『猫耳、猫尻尾、メイド』 というものだった。  玄関を開けて、俺がメイド服を着ていることを知ればタケシは確かに喜ぶだろう。  別に猫尻尾をつけていなかったとして、きっとそのあと無理矢理つけられるんだから、それでもいいかもしれない。  わざわざ俺からつけてやることなんかない。  タケシの誕生日だからって。 「くそぉ、タケシのばかやろー」  俺は、猫尻尾のバイブの部分を口に含むと、それに執拗に唾液を塗りつける。  そしていつもタケシが俺にするように、俺の後ろの部分にも唾液を塗り込めると、ゆっくりと尻尾を挿入させた。 「あっ……」  小ぶりのはずなのに、あまり解れていないせいかなかなか入ってはいかない。  何度も何度も出し入れを繰り返し、ようやく全部を中に収めると、インターフォンが鳴った。  尻に異物を入れたまま歩くなんて生まれて初めてだ。変態タケシは俺に女装をさせることはあっても、こういう玩具はあまり使いたがらない。  おぼつかない脚でようやく玄関までたどり着くと、カチャっと音がしてドアが開いた。タケシが立っている。 「美咲、ただいま」  俺の姿を見てにっこりとほほ笑む。  そして、メイド服に身を包んだ俺をぎゅっと抱きしめた。 「可愛い、美咲。本当に着てくれるとは思わなかった」  そう言いながら、タケシは俺の尻を弄るのも忘れない。  そこにきっとタケシすら予想もしなかった物があるのを確認すると、タケシはびっくりしたように俺の顔を見ると、これでもかというくらいキスの嵐を俺の顔に降らせた。 「美咲、もうマジすげぇ好き」  タケシは俺をぎゅっと抱きしめながら、尻尾をぐるぐるとなでまわす。  そのたびにソレが俺の中を蠢き、内側から湧き上がる欲望に苛まれたのは、わざとなのか。もう、そんなことはどうでもよかった。  タケシの温かい腕の中で俺は思う。  やっぱり、俺はタケシが大好きだ。俺も、すげぇ好き。 「お、お帰りなさいませ……ご主人様……」  タケシの腕の中でそんな風につぶやいた俺も、きっともう十二分に変態だ。

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