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第6話

「アアンッ! もっと! もっと! アッアッ、アアアッ」  狭いワンルームマンションの一室には広いベッドが一つしかない。そして、そのベッドもすでに裸で抱き合う男たちに占領され、部屋の空いたスペースには撮影機材が所せましと置かれている。そんな状況では、自分の身の置き場はもうこの変態(タケシ、♂、27歳)の隣しかなかった。  それでも玄関に続くキッチンには人一人分のスペースは残っているから、そこを目指して少しずつ少しずつこの変態のそばから離れようとするがうまくいかない。その理由はタケシの座るイスの脚にはめられたおもちゃの手錠の片割れが、俺の右足首に繋がっているからだった。  この手錠……いや、足枷を施したのが俺の彼氏であるタケシであるなら暴言だの暴力だの実力行使でなんとかできるのに、こんな風に俺をつなぎとめたのがそのタケシではなくタケシの撮影クルーの一人、カメラマンの藤森さんなんだから本当にタチが悪い。  まぁそうなったのも「美咲がそばにいなかったら、仕事しない」などと社会人にあるまじき発言をしたこの変態彼氏に原因があるのだが。 「アアアアアアアアアアッ」  俺が一人でひそやかに足枷と奮闘していると、部屋中に低い声で叫び声が響き渡る。  ベッドの上でせっせと愛を営んでいた男優さんが昇天したらしい。緊迫していた空気が緩み、カメラが最後の表情を撮ろうとゆっくりとベッドに近づく。そして、たっぷりと時間をかけて男優さんの痴態をカメラに収めると、タケシは「カット!」と大きな声で叫んだ。 「おつかれ。よかったよ」  さっきまでの甘い雰囲気なんてなんのその。ベッドの上での行為なんてすっかり忘れたというように、髪をかきあげながらこっちに向かってくる男優二人にタケシが声をかける。そして、彼らは俺にちらりと視線を向けると何も言わずに浴室へ消えていった。  そりゃそうだろう。こんなガキ一人のせいで撮影がうまく進まなかったんだから。いくら足枷をつけられ、逃げられないように拘束されている男を目にしても同情の一つも出てこないだろう。それがわかるからこそ、この場にいることがいたたまれなかったのに。 「美咲、どうだった?」  ほかのことに気をとられそばにいるタケシのことなんかすっかり忘れていると、今までの努力が水の泡になる。タケシが俺の腰を引きよせ無理矢理膝の上に乗せたからだ。 「離せよ、この変態!」 「変態じゃなかったらこんな仕事できねーよ」 「開き直るな! うわっ、オマッ、どこさわってんだよ!!」 「どこって……ココ? 男同士のエロシーン見て反応してるかどうか確かめないとな」  タケシは手際よく俺のジーパンのチャックを下ろすと、慣れた手つきでその中にある俺自身をいじり始める。 「やっぱり、ちょっと反応してる。美咲はかわいーな。生で人のセ*クス見て興奮しちゃった?」  意地悪くタケシは言う。  そりゃあ女顔でよくタケシの女装させられている身ではあっても、俺は男だ。しかも生粋のゲイだとすれば、目の前で男同士のあんな濃厚なエロシーンを見せられれば反応したりもする。それは悪いことではない、はず。  だが、タケシにこんな風に言われると悪い気がしてしまうのは、きっとタケシが変態だからだ。 「美咲、不動産会社に就職なんてやめてウチの事務所に就職しろよ。そうしたら、いつでも一緒にいられるぜ」 「ぜってーやだ」 「不動産会社の営業なんて大変だぜ? ノルマもきついっていうし。それに比べれば、ウチの事務所はいいぜ。ノルマもないし営業もない。あるといえばこうして撮影についてきて荷物持ちくらい。美咲の大好きな彼氏とも一緒にいられるというオプション付き」 「こんなセクハラが横行している職場なんて絶対に嫌だね」 「セクハラ? セクハラってこれのこと?」 「アッ……」  タケシはそう言うと、すでに形作られていた俺の屹立をぎゅっと手のひらで握りこんだ。  タケシの手はいつも熱い。だから、こんな風に握りこまれるとその温かさが俺に別の熱を与えるのだ。 「これはセクハラじゃなくてスキンシップっていうの。そんなことも知らないと、社会に出てから苦労するぜ」 「そんなのこっちのセリフだ! ンッ」  タケシに文句を言おうと体勢を変えようとした瞬間、タケシの手が俺のイイ所をこすりあげる。思わずもれた声にいたたまれず、口を覆った。 「まぁそれはこれから先、ゆっくりな」 「タケシ……はな…ッ。んっ……ッ」 「せっかくだからこのままヤるか? そうだな、美咲と俺でAVっていうのもいいかもしれないな」  こんな応酬がセクハラでなければ、世間の女性たちはよほど自衛策を練らなければ生きていくことさえ難しいだろう。そんな理不尽なことが許されていいわけがない。 「一回、地獄に堕ちろ! このド変態が!!」  キレた俺がタケシに拳を振り上げたのは言うまでもない。

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