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第7話
俺の彼氏(タケシ、♂、27歳)は変態だ。もう何度この言葉を口にしたかわからない。俺の話を聞いてくれているみんながもう聞きあきただろうことも重々承知だ。
だが、俺はあえてもう一度言いたい。
俺の彼氏は、変態だ。
* * *
「タケシ……? 何やってんの?」
変な時間に目が覚めた。時計を見ればまだ四時という時間である。
それなのに一緒に眠りについたはずのタケシは隣にはおらず、不思議に思って明かりがこぼれていたホビールームに顔を出せば、薄闇の中でパソコンに向かうタケシの姿があった。
ホビールームとは名ばかりで、すでにタケシの職場と化しているこの部屋はいたるところにビデオカメラや照明など撮影機材が置いてあった。アダルトビデオの監督という人様に顔向けできないような仕事を生業としているタケシであっても本当は映画監督になりたいということは知っている。休みのたびに、この部屋にあるような機材を持って撮影に出かけていることも。
だからパソコンに向かって何か作業をしているタケシを見たとき、まず先に思ったのは趣味で撮った映像を何か編集しているのだろうということだった。
「美咲? どうした、こんな時間に」
眠い目をこすりながらタケシのそばに近寄ると、子どもをあやすように俺を抱きとめた。
「編集……?」
「まぁな。どうしても気になって」
タケシの愛用するシャンプーの香りが鼻をくすぐる。優しく頭をなでられると、幸せだなと思った。
タケシとこんな風に一緒に暮らすようになってから一年。なし崩し的にはじまった同棲生活ではあったものの、嫌ではなかった。そりゃあ、タケシは変態だし、エッチは激しいし、家事なんかまったくやらないふざけた奴だけれども、俺のことを大事にしてくれていることは知っている。
こんな風に甘やかしてくれるのも、俺を好きな証。
『あっ、嫌だ……、タケシッ……』
タケシの腕の中でまどろみかけたそのとき、聞き覚えのある声が聞こえた。
ん? と顔をあげると、しまったという顔をしたタケシの表情が目に入った。
「タケシ、今の何?」
「編集中の映像を間違えて流しただけだよ」
あわてふためいたようにマウスをカチカチいじりだす。
あやしい。
視線をパソコンの画面に向けるとそこには裸の男がこれまた裸の男の上にまたがって喘いでいる映像が映っていた。タケシの職業がアダルトビデオの監督だということを考えればそんな映像を編集していたとしても別に不思議ではない。
不思議ではないけれども。
「……おい」
自然と顔がひきつるし、声も低くなる。
「あー、バレちゃったか」
悪びれずにタケシは言う。
そう、タケシが編集していた映像は俺とタケシの愛の営みの映像だった。
「結構いいアングルに撮れてるだろ? 固定カメラでもこんなに臨場感たっぷりに記録できるなんて、さすが俺。美咲も可愛く乱れてるし、いい役者になれるぞ」
先日のセクハラ騒動のあと、俺はタケシに一週間エッチ禁止令をだした。
そのくらい厳しくしなければコイツの変態はいつか犯罪に発展すると危惧したためだ。そして、毎晩迫ってくるタケシを殴り飛ばしてなんとかその禁止令を厳守させたのは昨日まで。一週間と一日目の今日、深夜0時を回ってから仕方なくタケシの行為に応じたのだ。
一週間ぶりだからと、いつもより要求が多かったし、いつもより長かった。飢えたタケシを前に、つい乱れてしまったこともまだ赤裸々に思いだすことができる。
それは、もしかして。
「タケシ、オマエまさか」
「今後いつおあずけ食らうかわかんないだろ? だから、いつでもいいように寝室にカメラしこんでおいたんだ。いい絵がとれたから、今度禁止令が出された時はこれをおかずに……」
「おかずに?」
「おかずにごはん……」
明け方、四時。
近所迷惑だと隣人に怒鳴りこまれるほどタケシの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。
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