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第9話

新婚生活にあこがれを持ったのなんて、もうずっと昔のことだ。  そもそもよく考えてみればすでに一緒に暮らし始めてから1年も経っているのだから、そこにプロポーズの言葉が加わったとしても何が変わるというわけじゃない。  俺は相変わらずタケシの変態っぷりに毎日イライラしているし、タケシはそれを直そうともしない。  最近はそんな生活に慣れ過ぎて俺までタケシの変態が感染ってきた気がする。 「はぁ」  思わずため息をつくと、横から「なになに、どうしたの」とムカつくくらい陽気な声が聞こえた。サークルの仲間である横山だ。  そうだ、今日はサークルの飲み会だった。 「最近、美咲ちゃん元気ないよね。どーしたの」  男のくせになよなよとした話し方をする横山は、すでに何杯もビールを飲んでいるらしくアルコール臭が漂ってくる。相手にするのも面倒で、そばにあったサワーを口に含むと横山の奥から助け舟なのか、それともただの興味本位なのか真田が笑いながら会話に入ってきた。 「美咲は同棲している彼女のことで悩んでるんだよな。すっげぇ美人ってほんと?」 「なに、美咲ちゃん、そんな女の子みたいなのに女の子と同棲なんかしてたの?」  どこをどう突っ込めばいいのかすらわからない。  以前、俺がタケシと暮らすマンションに女装をしたまま帰ったところをサークルの誰かが目撃したらしく、それ以来、俺はものすごい美人な女の子と同棲しているということになっていた。訂正するのも面倒くさく、口を閉ざしていたことがさらに信用性を裏付けられたらしい。   「うるせーよ。どうだっていいだろ、そんなこと」  サークルの飲み会になんて、タケシと付き合い始めてからは滅多に来なかったのに参加したのは失敗だったかなと思う。  しかし、タケシが出張へ行ってしまい俺しかいないマンションで一人飯を食う気にはどうしてもなれなかった。  新婚なのに。 「美咲が女の子とエッチするところなんか想像できねぇよな。絶対、百合としか思えないって」 「真田……、殴るぞ」 「嘘嘘。冗談だってば。でも、マジ、こんな女の子みたいなのにたつの?」  真田はそう言うと、ぺたぺたと俺の平たい胸を触り始める。  なんだコイツ。 「だー、気色悪ぃな。やめろ……ッ」  そう大声をあげたとき、真田の指先が俺の胸の突起に触れた。条件反射とばかりに体が反応する。  真田はそれに気づくとさらに執拗に乳首をいじる。 「美咲、本当にかわいい。な、一回俺とヤッてみねぇ? 女とスるより気持ちよくするからさ」  真田は自分の手の動きを人に見られないように体勢をわずかにずらして、俺の前に位置どる。きわどく動く指先にいい加減助けを求めようと横山に視線を向ければ横山はすでに酔っ払って寝てしまっていた。 「気持ちいいだろ、美咲」 「気持ちいいわけねぇだろ、手ぇ離せ」 「そんな強気なところもまた可愛い。なぁ、マジで一回俺とヤろうぜ」 「死ね!」  きつく睨みつけてやれば、真田は困ったような顔をして俺の胸から手をどかした。  そして俺が飲んでいたサワーをぐびぐびと飲み干すと、天井を見上げながら言う。 「美咲。俺、オマエを食べちゃいたい」    信じられないと、青い顔をして真田を見つめると真田は「冗談だよ」と笑って、楽しく騒いでいる女の子たちの間に消えていった。    あぁ、どうして俺の周りには変態が多いんだろうか。  同じ変態ならタケシがいいと思ったことは、タケシにだけは内緒だ。

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