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34-しーーーーっ![愛は小出しに]2
真矢がタブレットで台本を見ながらセリフを読み上げる。
オレはそれを、クッションぎゅうぎゅう抱きしめながら、ベッドに座って聞いている。
もう、前後の流れで萌えまくってるので
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
なんて、何でもないセリフにも、その意味深さに『ハフ〜』となってしまう。
セリフを言うたびにいちいちリアクションされたらウザイんじゃ……と思うけど、真矢は全く気にしない。
もし逆の立場だったら、絶対恥ずかしくて演技に集中できないと思う。
真矢はエロいセリフも全く気にせず、時にはオレに見せつけるように言う。
真っ直ぐな視線と柔らかな声に、オレはメロメロのヘロヘロだ。
うっとりしながらも、意見を求められれば一応言う。
そうすると、当たり前だがセリフがオレ好みに仕上がっていく。
そしてオレはさらに、メロメロのヘロヘロのデロンデロンになってしまう。
オレは真矢に見守られながらエロいセリフを録音するってのは、ちょっと難しい。
恥ずかしくて、調子が出るのにどうしても時間がかかってしまうんだ。
まあ、最近はエロいのはほとんどやってないし、エロめなセリフがあったとしても、乙女ゲームなので比較的ソフトだ。
ヒロインに独占欲をみせたり、誉めたり、気遣ったり、そんなセリフが多い。
「何されても、文句言うなよ?そんなに可愛い顔、見せたオマエが悪い……」
エロい口調でこんなコトを言う程度。
あとはキラキラしたセリフで愛を告げるくらいかな。
生々しいエロセリフじゃなく、言い方がエロいだけなら、オレも真矢の前で録音するのにそこまで抵抗はない。
真矢はオレと逆で、オレがドエロい役をやるのをあまり喜ばない。
というか、はっきり言われた事はないけどイヤだと思ってるみたいだ。
エロいBLの受キャラの話が来たりすると、遠回しにやめさせようとする。
それが軽くヤキモチ焼かれてるみたいで、オレはついつい心の中でニンマリしてしまう。
独占欲……みたいなことかなって思ってる。
真矢は聞けばなんだって教えてくれるから、エロいセリフのある受けキャラをやめさせたがる理由も聞けば教えてくれるかもしれない。
『サヤちゃんの甘い喘ぎは全部俺のモノにしてしまいたいんだ』
なんて言われたら……。
はあ……言われたーい。
いや、言ってくれそうだ……。
BLの受けキャラでも設定が真矢のツボをガッツリ押さえてたりすると、猛プッシュでやって欲しいと言ってきたり、二人で通話する時にその設定のキャラなりきりで遊んだりもする。
そんなとこはちょっと可愛い。
膝を抱えた姿勢のままベッドにコロンと転がって、納得いくまでセリフを繰り返している真矢をポヤーンと眺める。
メガネ越しの真剣な表情がめちゃくちゃカッコいい。
けど、オレはトキメキ過ぎてしまわないよう『どうせ恋愛フィルターで3割増カッコ良く見えてるだけだし』と、自分に言い聞かせる。
ベッドの上なのに雲にでも乗ったみたいにふわふわしてて、胸もキュッとし続けてるから、セーブしてる効果があるのかどうかは全くわからないけどな。
今やってるのはちょっと印象づけたいセリフらしい。
真矢はセリフをしっかり作り込んで録るから、あまりテイクを重ねる事はない。
オレは録ったのを聞いてからどうしようかと考えるから、タイプがちょっと違う。
「たとえ私の大切なものを、全て打ち壊すことになろうとも『本当の貴方』を取り戻す。……そうこの月に誓います」
快楽堕ちでアンアンな主人公とエロエロなときの、カッコいいセリフ。
けど、真矢はただカッコよく言うんじゃなくて……。
吐息まじりでエロいのに、苦悩がにじんでて……もー、すげぇ色っぽい。
今回の役はわかりやすくエロいセリフもあるけど、このセリフが一番腰にキた。
「サヤちゃん、なんて顔してんだよ」
真矢が目を細める。
「んぁ〜?」
「もう次で今日はおしまいだけど……そんな顔されたら。はあ……ちゃんと演 りたいのに、さっさと終わらせたくなる」
真矢は次のセリフを口の中でブツブツと何度か繰り返し、ちょいちょいと手でオレを呼んだ。
オレはニヘっとだらしない表情で真矢に近づく。まるで主人に呼ばれた飼い犬だ。
マイクを挟んで向かい合い、真矢がオレの手を取る。
その手の甲にキスを落としながら、真矢が悩ましげにセリフを言った。
「チュッ…チュ。……笑顔を取り戻したい……そう願っているのに……。雌犬のように、淫らに蜜穴からよだれを垂らし、快楽に狂う貴方を、このまま鎖で繋いでしまいたくなる」
掴まれた手がビクビクっと肘まで甘く痺れる。
キスと吐息交じりの低い艶声にヤられて頭は真っ白。それでも腰が落ちそうになるのは必死でこらえた。
「………っはぁぁああ……」
充分に間を取って、ため息とともにしゃがみ込む。
真矢は涼しい顔で録った音を確認してやがる。
キス音なんかが必要な時、真矢はこうやってオレを使うことがある。
最初のときは何の説明もなく首筋にキスをされたせいで「ふぅくっ!」っと派手に息を呑んでNGにしてしまった。
それからマイクとの位置どりとか音の録りやすさを考えて、キスする場所は手に落ち着いた。
手とはいえ、真矢がオレにキスしてる音が使われる。
それだけで、たまらなくドキドキした。
いまだにキスと声のトーンだけで腰が砕けそうになるけど、今回も大人しく我慢できた。
そう。慣れは大切。
いつまでも初々しければいいってわけじゃない。
真矢がキス音を録るのは、大体その日の録音スケジュールの最後の方だ。
音をチェックしてる真矢に、こんな風にオレが後ろから腕をまわして、べったりくっついて離れなくなってしまったり……なんてことになりやすいからな。
「サヤちゃん、もう一回いい?」
「ウン!うんっっ!」
だらしない顔を真矢の背中にすりつけた。
ちゅ…チュ……。
しっとりとした唇の感触と、さっきよりさらに甘く切なくなった真矢の声。
オレはもう……ヘロヘロのデロデロのふにゃふにゃのクラクラのジュンジュンだ。
OKテイクが録れれば、その後は当たり前のようにイチャイチャタイム。
まあ、オレにとってキス録りの後のイチャイチャが当たり前ってだけで、真矢はオレの反応を見て付き合ってくれてる……って感じだけどな。
ああ、もう。機材のスイッチなんか後でいいだろ?
それより、オレのスイッチを入れた責任………取れよ。
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